蛇足
お前は誰だ
多分よしきはよしおの事を嫌っているわけではない。
馬鹿にしているわけでもない。
自分と似ているが故に、よしきには兄の行動の一つ一つが気になって仕方がないのだ。
構いたくなるのだろう。
「(まぁ、よしお君はただの嫌がらせとしか思ってないだろうけど……)」
うんうん、楓が一人納得していると今まで黙っていたよしきが怪訝そうな目で此方を見つめていた。
「何、一人で納得してんのさ……気持ち悪いんだけど……」
「いや、ちょっとね……まぁ、とりあえず。よしき君は下ばっか見てないで勉強をがんばれって事だよ」
「なに……それ。あんた、なんか変だね」
よしきは少しだけ言葉を柔らかくすると小さくため息をついた。
しかし、その動作は今までの見下すような態度とは違いどこか親しみの持てる態度であった。
少しは……よしきに近付けたのかもしれない。
楓は静かにそう思うと表情の軟らかくなったよしきに小さく微笑んだ。
「まさか蔦谷の人間に勉強のアドバイスを受けるなんて思っても見なかったよ、まぁ受験に失敗した人の貴重な意見として覚えてやっててもいいけどね」
「キミ、いちいち引っかかる言い方するねぇ」
まぁ、口は未だに兄弟そろって最悪だが。
楓は苦笑すると壁に立てかけておいた箒を手に取った。
よしきもそれに呼応するように、脇にあったゴミ袋を掴む。
「お喋りしすぎちゃったね」
「あんたがベラベラ喋るせいでね」
よしきの皮肉に楓が眉を引くつかせていると、楓は思い出したようにあ、と小さく声を上げた。
「よしき君?君、紀伊国屋を受けるんだったよね?」
「そうだけど。なに?」
よしきはゴミを手に持ったまま楓の方を振り向くと、箒を持ったままこちらを見るよしきに目をやった。
「多分ね、紀伊国屋の入試傾向、来年から変わりそうな気がするから気を付けて」
「は?」
楓の思いもよらぬ言葉によしきは、言葉の意味が掴めず眉を潜めた。
そんなよしきの様子に、楓は全く気付かず箒を持ったまま何気ない様子で言葉を続ける。
「今年の入試問題見る限りじゃ、来年あたり社会と数学の個別試験の問題……えぇと。どこだったかな?数学は大門3の相似の問題、あそこが多分変わって来ると思うから気をつけて。あとは、社会だと例年じゃ日本地理に問題の配点が集中してたけど多分来年の入試じゃ、公民か……もしくは世界地理にシフトしてくると思う。歴史はやっぱり1次の時点で配点が高いだろうから、個別ではあんまり気にしなくていいと思うよ。あ、でも5年前の問題では「ちょっと待った」
よしきはマシンガントークな勢いで話し始めた楓に、まったをかけると手に持っていたゴミをその場に落とした。
「あんた……何言ってんの?」
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