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蛇足

「さっきから聞いてればさぁ……あんた、一体何様のつもりだよ……?蔦屋に通ってるあんたに馬鹿扱いされる程、俺は落ちぶてないよ」

未だに薄く笑みを浮かべてこちらを見つめる楓に、よしきは拳を握り締めながらやっとの事で答えを返した。

しかし、そのよしきの必死の抵抗にも楓は一切表情を変える事なく、やはりその目はよしきをただ見下すのみだった。



「(……何でだよ)」

よしきはゴクリと唾を飲み下そうとした。

しかしよしきの口内はカラカラに乾いていて、ただ喉が静かに動くのみだった。

よしきは恐れていた。

楓の目が

まっすぐ見つめる、

自分を否定する

あの目が。


「(……止めろよ)」


どうしてそんな目で俺を見るんだよ

蔦屋の癖に

蔦屋に通ってる癖に

何で

どうしてそんな目で俺を見る…

止めろよ……!!!



「……俺は来年紀伊国屋を受ける」

よしきは苦しげに歪んだ表情で絞り出すように、そう呟いた。

「紀伊国屋に?」

「馬鹿なあんたでも……紀伊国屋は知ってるよね?俺は来年紀伊国屋を受けて合格する……あんたらとは全く違う人生を……俺は歩くんだよ……負け犬のあんたとは全く違う人生をね…」

言い切った後、よしきは耐えかねたように、楓から目をそらした。

見ていられない。

だけど、きっと次の瞬間にはきっと楓は自分を悔しそうな羨望の眼差しを向けているに違いない。

だって、自分が受けるのは“あの”紀伊国屋だ。

日本で1、2を争う程の有名進学校なのだ。

紀伊国屋に行けば、それだけで将来は約束されたようなものだ。

誰もが羨む人生を歩む事ができるのだ。

だから、

きっと次に見る楓はあんな目をしていない筈だ。

よしきがそう思い顔を上げようとした瞬間、

よしきの耳を貫いたのは、やはりあの色のない冷たい声だった。

「つまらないな、キミ」

「っ!?」


「本当に、つまらない……」

楓は呆れたような目でよしきを見やると、小さく溜め息をついた。


「あのさ、よしき君。今は頭がいいかもしれないケド……キミ、にこれから絶対に成績もそうだけど、全てにおいて伸び悩むよ?」

伸び悩む。

そう言った楓の言葉に対し、今まで怒りに満ちていたよしきの目が一瞬ユラリと揺れた。

その変化を

楓は見逃さなかった。


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