蛇足
赤点だよ、よしき君
「馬鹿にするなよ」
楓の呟いたその言葉に、今まで楽しそうに顔を見つめていた、よしきの目がピクリと動いた。
そんなよしきの表情の変化を、楓は射抜くような鋭い目でしっかりと見つめる。
そう、楓はこの時最高に
「(あぁ、ムカつく)」
怒っていた。
自分の事はなんと言われてもいい。
ただ、自分の友達をバカにする事だけはどうしても我慢ならない。
許せない
よしきは次第に鋭くなる楓の目に、どこか自分を見下しすような色があるのに気付いた。
「(……こいつ…俺を……馬鹿にしてる)」
何故だ。
何故自分がこんな奴に馬鹿にされなければならない。
見下されなければならない。
よしきは湧き上がってくる疑問と憤りにこちらを睨み付けてくる楓の目を真っ向から受け止めた。
否、受け止めたのではない。
逸らせなかった。
こんな目で見られた事は一度もなかった。
初めて見る目。
それはよしきにとって
最高に屈辱だった。
「……はっ、何?怒っちゃった?でも俺が言った事、全部事実だろ」
「そんな事誰が決めた」
「誰って……あんた馬鹿?全てはあの学校に……蔦屋通ってる、それが全てにおいて答えだろ」
そう自信たっぷりに答えるよしきに、楓は同じ目線にあるよしきの目を、ニコリと笑って見つめる。
その笑顔は無駄に柔和だったが、それはただ相手を蔑ずむ意図しか含まれていないものだった。
「へぇ……そっか。それは凄く予想外に頭の悪い答えだね?よしき君。残念だけどそれじゃあ合格点どころか赤点すらあげられないな」
「っな!」
「あれ?頭が悪いって言われたの初めて?おかしいな、俺は昨日初めてキミに会った時からそう思ったんだけど?」
ニコニコと笑いながら口を挟む隙など与えずに話し続ける楓に、よしきの表情はみるみるうちに怒りを含んだものに変わっていった。
そんなよしきに対し楓は涼しげな様子で手に持っている箒をコトリと壁に立てかけた。
「……ほんとにさ、昨日から思ってたんだよねぇ。よしき君さぁ、キミ自分で何かを学び取ろうとした事ある?……ないよね?きっと。そんなキミに蔦屋をどうこう言われたくないんだけど」
向上心がないとか
無意味だとか
キミが他人にそんな事言える立場に居ない事に、キミ自身気付くべきだ。
「ねぇ、よしき君?」
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