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蛇足
我慢の限界
「ねぇ、あんたさ。聞いてんの?」

そう言って肩を揺さぶられた楓は、今まで浸っていた思考から一気に引き戻された。

意識を覚醒してまず目に入り込んできたのは、自分の友達にそっくりな不機嫌そうな顔だった。

「え、あぁ。何かな?よしき君」

精いっぱいの作り笑顔で楓がよしきに返事をすると、よしきは眉を寄せ苛立ったような表情で楓を正面から見ていた。

「あんた、人の話も真面目に聞けないの?会話くらいまともに成立させてよ。俺無駄な事が一番嫌いなの。というわけで、1回で聞き取ってよ。時間もったいないから」

「…………そうだね」

それなら話しかけなければいいのに。

もう、楓にはこの会話自体が無駄なように思えて仕方がなかったが、突っ込むのも面倒なので、とりあえず肯定してくことにした。
逆らったりして更に何か言ってきたらそれこそ面倒だ。

「あんたさ、なんで蔦谷なんか選んだの?ちょっと興味あんだよね。あんな卒業しても無意味な高校、俺だったら絶対選択肢には入れないからさ。ねぇ、どうして?」

そう言って楽しそうに尋ねてくるよしきに楓はヒクりと自分の眉間に皺が寄るのがわかった。

この少年は本当に人を見下して優越感に浸るのが好きなようだ。


あぁ、本当にタチが悪い。


楓はヒクついた眉間を隠すように、近くにあった箒を掴んで床を掃き始め無感情な声で短く答えた。

「別に、理由はないよ」

そう、蔦谷を選んだ理由など全く無い。

適当に書いた第2志望。
うっかりバスで寝過してしまった自分。

全てにおいて理由など一つもない。

ないからこそ、自分はあそこに入学する羽目になったのだ。

そんな楓の返事によしきは、やっぱりね、と揶揄するように笑うと下を向く楓の様子をじっと見つめた。

「はっ、あんたアレだ。高校くらい出とかなきゃ、なノリで高校選んだ奴なんでしょ?いるよね。そういう将来性も、生産性もない人生の選択する奴。俺にしてみればそんなのただの時間と金の浪費にすぎないね。思わない?」

そうペラペラと薄く笑みを浮かべるよしきに楓は箒の柄を持つ手に少しだけ力を込めた。

「(勝手だ……)」

楓は必死に箒の先を見つめと、自分の気持ちの片隅に小さく芽生えた怒りと言う感情に必死に蓋をしようとした。
だが……その感情はいくら楓が蓋をしようとしても、全く収まる気配を見せなかった。

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