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蛇足
忠告お兄さん

『あー、言いたい事ってのはアレだ』

「あれ?」

楓は今、朝自分と話している最中に突然走り去ってしまったよしおと会話している。

『……昨日の事だよ!』

「ん?あれ、よく聞こえない……もしもーし」

電話で。

『昨日の事っつってんだろーが……!』

「あ、聞こえた聞こえた!んー、やっぱり学校だと電波悪いねぇ……それともよしお君が電波の届きにくい場所にいる?」

『っ!どこでもいーだろ!』

何故この楓がよしおと電話をしているのか。
それは楓にもわからない。

ただ、突然居なくなったよしおは、そのまま教室に帰って来る事はなく、昼休みにいきなりケータイを持って現れたたけるの「三木、よしおから電話」という一言で今の状態になったのだ。

ケータイを持っていない楓は現在、クラスメイトであるたけるのケータイでよしおと会話をしている。

「それで?よしお君話って何?」

『あー、だから……アレ、昨日のよしきの……弟の事だよ』

「………あぁ」

よしおの言った“弟”というフレーズに楓は昨日のふてぶてしい少年の顔を思い出すと、静かにうんと頷いた。

『悪かったな、アイツ自分が頭いーもんだから、周りの奴ら……特に俺に関する事になると、すぐ見下した態度とってきやがんだよ……最悪なんだよ、アイツ』

マジ、わりぃ

そう言って心底すまなそうな声で謝ってくる、よしおに楓はケータイ越しに小さく笑った。

「いいよ、気にしてないから。それに、よしお君が謝る事じゃないよ」

『…いや…一応俺はアイツの兄貴だから……代わりに謝る』

「よしお君は本当に律儀だなぁ」

最悪だ何だと言いながらよしおはキチンと自分はよしきの兄だとハッキリ言った。

そして弟の非礼を代わりに謝った。

彼は素行は本当に最悪なのに、こういう所ではとことん律儀だ。

出会った頃から全く変わっていない。

楓が電話越しにクスクス笑うと、電話の向こうから少しムッとした声で『笑うな』と言う声が聞こえてきた。

その声に今のよしおの浮かべる顔が、楓には容易に想像する事ができて、更におかしくなった。

「ところでよしお君、もうすぐ昼休み終わっちゃうけど、5時間目は出ないの?」

楓が笑顔のままの状態で何気なくよしおに問うと、何故かよしおは『あー、つーか』と言いにくそうな声を電話口から漏らした。

『つーか、俺、今日のバイトも出れねぇかもしんねー』

「へ?何で?」

『いや、まぁ理由はたいした事じゃねぇ。触れるな。ま、出れるなら出る……』

よしおの要領を得ない説明に、楓はとりあえず、わかったと答えておく。

よしおが触れるなというからには、あまり言いたくない事なのだろう。

そこを無理に聞き出そうとする程楓は不粋ではない。

「じゃあ、そろそろ授業始まるから電話切るね」

楓がそう言ってケータイから耳を離そうとした時。

『楓!』

そう勢いよく楓の名前を呼ぶよしおの声が楓の耳に響いた。

「よしお君?」

『今日、バイトでよしきに会っても絶対シカトしろ。何を言われても言い返すな。ムカつくだけだから……絶対に…アイツには関わるな』

よしおの余りの真剣な言いように楓は思わず何も言えないでいると、よしおは『それだけだから』と言い一方的な通話を切ってしまった。

楓は通話の途切れたケータイ画面をぼんやり見つめると小さくため息をついた。

「……兄弟かぁ」

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