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蛇足

「おい……聞いたか……?蛭池さんが料理なさられるってよ」

「これもこないだ言われなさってた“ギャップ”ってヤツなんじゃねーのか?」

「でもここには女はいねぇぜ?誰にアピールなされてるんだ?蛭池さんは」

「ばっか、お前。女が居ようと居まいと関係ねぇんだよ!普段からギャップってていうオーラを身に纏う為には普段から気を使わなきゃなんねぇーんだ!」

「すげぇよ蛭池さん!普段のそんなきめ細やかな所まで気を使ってなさられるなんて!」

「なんて心掛けの良い方なんだ……!」



楓は、満面の笑みを浮かべこちらに食材を差し出す彦星に小さく笑みを浮かべながら思った。


絶対ツッコムものか、と

このちょっとした感動場面にある自分の思考は誰にも渡しはしない。

そう固く決意した。



しかし楓自身気付いていた。

そんな事を考えている時点で自分の思考の大部分が、この教室に居る天空の城共に持って行かれているという事を。

「行こっか…家庭科室」


早くこの場を離れたい


そう楓が切に願いながら彦星と蛭池に言うと突然、天空の城……もといクラスメイト達が次々と椅子から立ち上がり始めた。

あぁ、全然嫌な予感なんてしないぞ。
全然しないぞ…!


「蛭池さん!」

「ちょっとお待ちになって下さい!」


お待ちにならねーよ!
ちょっとホント…お願いだから天空に帰って……


「何だ?お前ら」


ってこの人お待ちになっちゃったよ!
もー!お待ちかねだよ!


楓が蛭池の隣で眉がヒクつくのを止められずにいると、クラス全員のキラキラとした視線が蛭池へと向けられていた。

「お……俺らも…ご一緒してよろしいでしょうか?!」

「一緒に“ギャップ”の極意を学ばせて下さい!」


よろしくお願いします!


そう言って一斉に頭を下げるクラスメイト達に楓は眩暈を覚えた。


あはは。
このメンバーでカレー作り……

絶対無事じゃ終わらない気がする


「ギャップ……?まぁいいだろ。楓、こいつらも一緒に料理させてやってもいいか?」

そう楓に問うてくる蛭池に対して楓は「あはははー、勿論だよ」と乾いた笑みで返事をした。


「じゃあお前ぇら、周りのクラスに邪魔になんねぇように先に家庭科室に行ってろ」

「「「「「「わかりました!」」」」」

そう言うと本当に静かに教室から出て行く天空の城もとい不良もといクラスメイト達の背中を遠い目で見送った。

きっと彼らも根は素直な良い人達なんだろう。

楓はぼんやりとそう思った。

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