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蛇足
10
『それにアイツは意外と不器用だし抜けてるところもある。思い込みも激しいしな』

よしおの口から流れ出るように飛び出してくる言葉の数々に、楓は扉の前でただポカンと立ち尽くしていた。

それは教室に居た他のクラスメイト達も同じだったようで、中からはよしおの声しか聞こえない。

『(っていうか…!)』

楓はよしおの言葉を理解した瞬間、顔を真っ赤に染め上げた。

何故なら先程、よしおが言った言葉は全てバイト中に楓がしでかした事ばかりだったからだ。


バイト初日。
置いてあったバケツに躓いて店を水浸しにした。

バイト3日目。
よしえに外にある花は実は造花なのよと言われ一昨日まで信じこんでいた。

バイト5日目。
客に花の種類を尋ねられ焦りまくった。

バイト10日目
贈答用の花のラッピングの練習で何セットも花束をダメにした。


全てがバイト先での楓の失敗に基づく事実である。


楓は顔を真っ赤にしながら全ての自分のドジを思い返した。

どうしてよしおが突然そんな事わを言い出したのか。

楓にはさっぱりわからない。

だが、次の瞬間よしおの口から出された言葉は楓に大きな衝撃を与えた。

『アイツがすかしてる?ふざけんな。そんな風に見えてるだけで、あんなもんただのアイツの強がりだ』

あ。

バレてる。


楓は目を見開いた。
よしおには全てバレていた。

この教室で楓が馴染めていない事も。

そのせいで必死に教室では気をはっていた事も。

全部よしおには見透かされていたのだ。

それがわかった瞬間。

楓は今まで張り詰めていた緊張が一気に解けた気がした。

自分を理解してくれる人が居る。

その事実は楓をひどく安心させ、そして満たしていった。


『それに馬鹿にしてんのはむしろお前らの方だろうが。ったく影でグチグチ言いやがって。うぜぇよお前ら』

その言葉と共によしおが椅子から立ち上がったのがわかった。

教室から出つもりらしい。

徐々に足音がこちらに近付いて来ている。

そのため楓は慌ててその場を離れた。



誰もいない廊下の片隅で楓は込み上げてくる感情を止める事ができなかった。

自分を見てくれる人が居るという事のなんと嬉しい事だろう。

自分を理解してくれる人が居るという事のなんと安心する事だろう。

思えば確かに楓がバイトで失敗をする時は、いつも側に居てくれた。

フォローしてくれた。



嬉しい……

嬉し過ぎる


楓はその場にうずくまるように座り込んだ。


自分が居ない時の言葉だからなおのこと 嬉しかった。

本心で言ってくれてるのだとわかるから。


よしお君、ありがとう



楓はその時、家を出てから初めて泣いた。

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あきゅろす。
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