御免こうむります
一足先に、猫の現状(1)
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「あら、あら。ぶーちゃん。今日もご飯もらいに来たのー?」
「にゃー。にゃー」
ぶーちゃん。
そう、目の前の老婆が俺の頭を撫でながらニコニコと笑っている。
ぶーちゃん。
ぶーちゃん。
目の前のばあさんにとって、俺は“ぶーちゃん”らしい。
「ほぉら、ぶーちゃん。今日は昨日のお昼のサバの煮つけの端っこの方よー」
「にゃーにゅあーにゃー」
「そうそう。うれしいのねぇ。たくさん食べなさい」
ちなみに、そう言って俺の頭を撫でる老婆は“ミソノサン”と言うらしい。
人間と言う生き物は、こうして何にでも名前がある。そして、何にでも名前をつける生き物なのだ。
おもしろい。
「ぶーちゃんはかわいいわねぇ」
「にゅあー」
ガツガツと飯を食べながら返事をする俺。
ミソノサンの撫で方は少々強引なので苦手であるが、こうしておいしいサバの煮つけの端っこをくれたのだから、我慢するよりほかない。
俺はあの日、あの冬の日、確かに死んだ。
死んだ筈だった。
けれど、今もこうしてあの日と変わらぬ姿。いや、逆に若返った姿で今もこうして生きている。
簡単に、端的にその理由を説明しようとすれば、つまりはこういう事だ。
俺は、“変な猫”になってしまったのだ。
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