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御免こうむります
一足先に、しろとおそろしいうた

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「まいごのまいごのこねこちゃん」

俺が、猫と人間の生活を初めてどのくらい経っただろうか。
ピンク色の花がヒラヒラ舞っていた暖かい季節が過ぎ去り、今は木が青々と色づいている。
少しだけ、太陽の光がじりじりとしてきたような気がする。
熱いのは、少し苦手だ。

「あなたのおうちはどこですか」

今日の俺は人間だった。
昨日は猫だったので、人間になるかなぁと思っていたら当たっていた。
最近、俺は明日自分が何になるか何となくわかるようになってきていた。
猫のカンと言うやつだろうか。

あぁ、カンと言うのは人間の“なんとなくこうだろう”という考えを指すのだそうだ。
“あてずっぽう”とも言うらしい。

「おうちーを聞いてもわからない」

俺は人間になってから以前よりより多く人間の言葉を知る機会が増えた。
特に今は人間の書く“字”も勉強している。
教えてくれるのは、以前俺に日本と世界の事について教えてくれた賢い子供だ。
あの賢い子供の名前は“せんせい”というらしい。

そう、自分の事を呼べと賢い子供は俺に言ってきた。
せんせいは小学生という仕事をしていて、勉強をしに毎日学校へと通っている。
勉強とはとても難しく、家でしなければならない宿題というものが大変だと言っていた。

「名前を聞いてもわからない」

たまたま公園で会えた日、俺は先生に“字”を習っている。
今は“ひらがな”を教えて貰っている最中だ。
覚えても覚えても“字”というのはたくさんあるので俺は腹の毛がひゅうんと散ってしまいそうな気持になる。
けれど、俺はがんばってせんせいに“字”を習っている。

「にゃんにゃんにゃにゃーん、にゃんにゃんにゃにゃーん」

字を覚えたら、俺にはやりたい事がある。
だから、がんばるのだ。
せっかく人間になれたのだ。
できる事は、できるだけたくさんやろうと思っている。

「なーいてばかりいるこねこちゃん」

そう、俺がせんせいに習ったばかりの歌を歌いながら道を歩いていると、道の向こうから見知った顔が歩いて来た。
それは、

「しろだー」

「…………お前かよ」

俺は無表情のまま俺を見つめるしろを見つけて、走ってかけよった。
俺としろはあの日からちょこちょこいろんな所で会うようになった。
しろは俺が人間の姿だと、外で会っても無視をしない。
だから、しろと会う時は人間の時の方がいいなぁと最近は思っている。

「お前、学校とかねぇのかよ」

「んー、俺は学校ないよ」

「大学生ってのは気楽でいいな」

「ふふふ、しろは学校はー?」

「ねみぃ」

俺はしろの隣を歩きながら真上に上った太陽の下を歩いた。
どうやら、しろは高校生というやつで、アカと同じ年らしい。
高校生は小学生と違って、眠いと帰っていいようだ。
俺からしてみれば高校生も気楽でいいなぁと思う。

「まいごの、まいごのこねこちゃんー」


「…………」

「あなたのおうちはどこですかー」

俺はしろの隣を歩きながら、またうたを歌った。
うたというのは人間の考えた凄いものだ。
うたを歌うとお尻をふりふりしたくなる。お腹の毛がふわふわする。

そして、これはなんと猫の歌なのだ。
だから、俺はこれをせんせいから習った日から、俺のお気に入りだ。

「……はぁ、お前。んなうた歌いながらついてくんな。恥ずかしい」

「この歌は恥ずかしい歌じゃないよ。しろ知らないの?」

「…………」

「これは一人立ちの厳しさを歌ったうたなんだよ」

俺は隣を歩くしろにこの歌がいかに子猫の試練を歌ったうたなのかを説明してあげることにした。
俺はこれを先生に習った時、人間と言うのはなんとも凄い歌を作るものだと感心したものだ。

「この子猫はきっと一人立ちをするように母猫から縄張りを追い出されたけど、それにも気付かず鳴いてばかりいるという歌なんだ」

「…………」

「犬のおまわりさんもそれには気付いているのだけど、子猫が余りに鳴くものだから本当の事を伝えられないでいて、それを誤魔化す為にカラスやスズメに聞くなんていう無駄な事をしたんだ。厳しい野生の世界をよくひょうげんしている」

俺がそう歌の言葉を思い出しながらそう言うと、隣に一緒に歩いていたしろが立ち止まって俯いている。
なにやら手で顔を覆っているようだ。
ヒクヒク肩も震えている。

一体どうしたのだろうか。

「しろ、どうした?死ぬのか?」

「っふ、っくくく」

「しろ?」

どうやらしろは笑ってようだ。
にこにこだ。
しろはたまに俺と居るとこうして苦しそうに腹を抱えて笑う事がある。
何がおかしいのか、俺にはさっぱりだ。

「っほんと、お前……なんか、いろいろおもしろい奴」

「そうかなぁ?俺はふつうだと思うけどなぁ」

「ふはっ!どこが」

そう言ってまた顔を覆うと、道の真ん中で笑い出した。
周りの人が変な顔でしろを見ている。
しろ、お前は今まわりから変な奴だと思われているよ。

「まいごの、まいごの」

俺はしろが笑い終わるまで、お気に入りのこの歌をまた歌う事にした。
そしたら、笑っていたしろが更に笑い出した。
もうその場に座り込んで笑っている。

余りにも苦しそうなので、俺はしろの背中をよしよしした。
ヒクヒク動くしろの肩が絶え間なく動く。
しろはおかしな奴だ。

こんな厳しい歌で笑うなんて、どうかしている。
けれど、笑っているしろを見ていると俺はなんとも気分が良く歌うのを止めて一緒に「ふふふ」と笑ってしまった。

人間になって、しろとこうして喋れるようになった事がなんとも俺には嬉しくて仕方が無かった。

その後、俺はしろに別の猫の歌を教わった。
しろに教わったその歌は、今度はとてもおそろしい歌だった。
なんともなんともおそろしい。


「ねこふんじゃった」


人間はなんておそろしい歌を作るのだ。
俺はひたすら「ねこふんじゃった」と歌い続けるその曲の存在に、体中がぶわっとなって夜眠れなくなってしまった。

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あきゅろす。
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