御免こうむります 一足先に、俺は人間?それとも猫? ------------ 人間とは、とても面白い生き物である。 俺はいつも、いつだってそう思っていきてきた。 しかし、俺は最近になって思う事がある。 俺達“猫”だって、それはそれは面白い生き物であると。 「にゃあ、にゃああ」 (おはよう、かみさま) 俺はかねてより“変な猫”であった。 一度死んだにもかかわらず、しかし結局、俺は今も尚生きている。 そして、更には猫にも関わらず、人間の言葉を理解する。 怪我をしても傷は消え、死なない“変な猫”だ。 それは、どうやら全部、俺の住んでいる“渡瀬神社”に一緒に住んでいる神様のせいらしい。 まぁ、神様は隠れるのが上手なので、俺は同じ家に住んでいるのに一度も神様を見た事が無い。一度会って話してみたいなんて思ったりしている。 そして更に、そんな神様は俺にもう一つ変な所を増やした。 「ふふふ、おはよう。かみさま」 俺は“変な猫”から“変な人間”にもなるようになった。 なんという事だろう。 もうこれは変という言葉だけだは収まりきらぬくらい変だ。 だから、俺は自分の呼び方を変えた。 大きな変で“大変”だ。 俺は“大変な猫”であり“大変な人間”にもなってしまった。 「今日は、人間」 俺の体は猫になったり人間になったり忙しい。 ある日は猫、またある日は人間。 交互に変わる日もあれば、2日連続人間の時や3日連続猫の時もある。 まぁ、日替わりな事がおおいけれど。 「にゃあ、にゃあ」 (今日は、猫) 面白い事に、猫の時は人間の事を面白いなんて思う俺は、人間になると猫の事を面白いと思ったりする。 なんてことだろう。 ともかく、自分の姿によって、俺は俺なのに俺の頭の中がふよふよとあっちへいったりこっちへ行ったりするのだ。 猫の時は人間を観察し、人間の時は猫を観察する。 俺の頭の中は本当に忙しい。 「にぃ?」 (俺は猫?) 「それとも人間?」 さぁ、どちらなんだろう。 ともかく俺は大変な生き物になってしまった。 かみさま、俺はどっちなんですか。 ------------ 俺が初めて人間になったあの日。 俺は知らぬ間にしろの家で眠っていた。 しかし、目を覚ますと俺の体はいつの間にやら猫に戻っていた。 あの時は一瞬何がなんだかわからず、びっくりしたものだ。 人間の体だと思っていた頭の中。 しかし、実際は猫の体で。 しばらく呆然として、無くなってしまった5本指を思い前足を見つめた。 だが、しばらくして目を覚ましたぼすが俺の姿を見た瞬間「しゃー!」といつもの威嚇をしてきたから大変だった。 あぁ、あんなに仲良しの挨拶までしたのに。 そして、昨日はあんなに「可愛い」なんて思っていたぼすに対して、猫になった俺は「やっかいな奴」なんて思ってしまったものだから、後から思い出して笑ってしまった。 しかし、ぼすは動けない割に本気で俺に向かって『おめぇなんだ!?なんで此処に居る!?殺すぞ!』なんて怖い事ばかり言ってくるから、俺は寝ているしろのの体を踏みつけて、しろの家から脱出した。 それでも、しろはまだ寝ているようだった。 しろはねぼすけなのだ。 その日を境に、俺の人間と猫の大変な生活は始まった。 猫だと思って床下で眠ると、起きたら人間なんて事もしばしば。 そして、その大変から生まれた一つ不便が俺を悩ませた。 人間の姿では床下で眠れないのだ。 まず、床下にもぐるのが難しいし、もぐっても窮屈で寝るどころの騒ぎではない。 だから、俺は寝床を変えた。 変えたと言っても渡瀬神社から出て行ったわけではない。 今まで猫だったから入れないでいた、お金を入れる箱の奥にある扉の向こう。 丁度人間の家の中のような空間になっているそこは、何か奥に人の形をした置物が置いてあるだけで他には何もなかった。 人間として寝るには丁度よい。 俺は寝床を床下から、人間のように家の中に変えたのだ。 あぁ、これではまるで人間のようだ。 俺は居心地の良い家を手に入れ、とても腹の毛がぶわぶわした。 ちなみに、人間から猫に戻ったその日、俺はアカに会いに行ってやった。 俺に会いたいと水ばかり流していたあの顔が頭から離れなかったのだ。 俺はアカの親なのだから、アカを許してあげることにした。 俺を無視した事も、俺を蹴った事も。 だけど、俺が大変な猫になって大変な人間になった事は言っていない。 言うつもりもない。 これは俺だけの秘密だ。 ひとりぼっちにならない為の、俺だけの秘密。 あの時のアカは面白かった。 目から鼻から口から水を出して俺に謝ってきた。 「ごめんあにき」なんて俺を抱っこして顔を擦り付けるものだから、俺の毛はアカの水でぬれぬれになってしまった。 アカは昔から汚い。 俺が舐めてやらないと、人間になっても顔もぐちゃぐちゃだ。 俺はアカの顔を舐めてやりながら、そんな事を思ったのだった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |