御免こうむります
一足先に、ゴミ漁りの鉄則
まったく、あいつらは人間のゴミを漁るルールというのをわかっていない。
人間は頭の良い生き物だ。
こんなに汚く散らかしてしまっていては、そのうち人間は俺達猫がゴミを漁っている事に気付いて、ゴミを漁れないようにしてくる。
まだ普通の猫だった時の俺が、何度それで餌場を変えなければならなくなったか。
食べる時は散らかさないように、綺麗に食べる。
それさえ守っていれば、ここにあるのはゴミなのだから誰に文句を言われる事もなく、安定的に美味い飯にありつけるのだ。
俺はひとまず散らかったゴミに目をやると、一つ一つ口で拾ってゴミ箱の中へ戻して行った。
その中で美味しく頂けそうなモノは頂く。
この表の店は肉を扱う店らしく、よく肉が入っている。
今日はゴミ箱の中から茶色い鶏肉を何個も見つけた。
これがまた美味い。
人間と言う生き物は食べ物を元あった形から大きくその姿を変えさせる力を持っている。
俺はその力が羨ましくて仕方が無い。
俺にもその力があれば、いつもいつだって美味しいものが食べられるのに。
そう思うが、猫の手ではそれは無理な話だろう。
人間のあの手でなければ。
昔、この店の親父が料理をしているのを、こっそり覗いて見た事がある。
親父はあの人間の5本の指を器用に動かしてせっせと肉を切ったり、たたいたり、何かを振りかけたり、焼いたりしていた。
そのうちに美味しそうな匂いが部屋の中を覆いつくし、俺は思わず涎を垂らしてしまった。
あの2本の腕と、5本の指は、それはもう魅力的だ。
2つ腕が在る事で行動に幅が生まれる。
更に小さな5本の指で、動きに細かさが生まれる。
俺は目の前でみるみるうちに姿を変えていく食べ物に、体中の毛がぶわっとなったのを覚えている。
人間の手が羨ましい。
俺のこの手ではどうあってもあれをやるのは無理だ。
「まぁ、でも食べれればいいか……」
そう、しばらく俺はゴミ箱の中の食べ物を必死に食べながら、同時に散らかったゴミを片付けた。
一つ一つ口にくわえてゴミ箱の中に戻すというのは意外と難儀なもので、俺は食べているのに、腹が減るという、なんとも奇妙な状態に陥っていた。
こういう時も人間の手であれば仕事も早いだろうにと思わずには居られない。
どのくらいそんな事を繰り返していただろうか。
俺はせっせとゴミを口にくわえて運んでいたせいで、大変な事を見落としていた。
見落としていたというより、気付けなかったと言えばいいのだろうか。
俺の背後に居た、あの殺気を帯びた猫の気配に。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!