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御免こうむります
一足先に、猫としろ(4)


そうやって俺がぼんやりとシロを眺めていると、シロの機嫌は更に悪くなっていった。

「んな事テメェらだけで片付けろ。はぁ?高宮が出て来た?……うぜぇな、場所は?」

「にゃあ?」

俺は話の内容にとても嫌な予感がした。

どうしてだ。
しろは今日は“学校”には行かないから俺にふれんちとーすとを作ってくれると言ったではないか。

それではまるで、今から出かけてしまうみたいだ。

俺は不安になってスルスルとしろの足元にすり寄るよると、ピンと尻尾を立てたままスリスリと体をしろの足に絡ませた。

そんな俺の行動にシロは少しばかり表情を緩めると、俺の頭を撫でた。

「わかった……すぐ行く。それまで死んでもアイツの好きなようにはさせんなよ」

「にぃぃ」

わかった。わかってたよ。
どうせしろは今日は“学校”へ行くんだろ。
知ってるよ、知っている。

俺はピッと音を立てて耳から四角いやつを離したしろに向かってジッと目を見てやった。
言葉は通じなくともわかるだろう。俺はいま腹を立てているのだ。

しろはふれんちとーすとを作ると言ったのに、作らない。

「にー!」

「悪かった。本当に悪かった。フレンチトーストはまた絶対に作ってやるから」

「にー!」

「ほんと、お前人間の言葉がわかってみてぇなリアクション取るな」

わかっている!
と、人間の言葉で話せたらどれらけいいだろうか。俺はピンと立てた尻尾をブワッと逆立出たまましろから離れた。

しろはまだ人間の若者だ。
俺は猫の大人だ。
こういうのを人間は“大人げない”と言う。

そうだ、俺は今とても大人げない。
まだしろは人間の子供なのに。

けれど、どうしてもふれんちとーすとが食べたかったんだ。

「にぃ」

俺は腹の毛がしゅんとする気持ちになると、チラリとしろを見て重い足取りでその部屋を後にした。
そのまま、玄関までまっすぐ歩いて、少しだけ開いた玄関の隙間に体を滑り込ませる。

すると。

「明日!明日、作ってやるからまた来い!悪かったな!キジトラ!」

「みゃあ」

背中の方からしろの叫び声が聞こえる。
俺は腹の毛がしゅんとなる気持ちが少しだけ軽くなるのを感じると、ちらりとしろを振り返りもう一度鳴いた。

俺も大人げなくてごめんな、しろ。

そう言って鳴いたが、きっとしろには伝わってないだろう。

けれど、しろは分かるとでも言いたげな顔で「じゃあな」と俺に手を上げた。
これだから、俺はしろが好きだ。

しろはどこまでも俺を人間のように扱ってくれる。
適当にあしらわない。

他の人間は俺の事を猫だから適当にあしらう。
「また今度ね」なんて言ってこなかった今度がどれほどあろうか。

しかし、しろは違う。

しろは「明日」と言ったら必ず明日はきっとそのふれんちとーすとを食べさせてくれる。
猫なんかに向かって申し訳なさそうに代替案なんか示してくる。

またな、と声をかけてくれる。

まぁ、外では一切の他人のふりだが。

俺は尻尾をピンと立てたまましろの家の玄関の戸を手で閉めると、「くあ」とまたしても眠くもないのに欠伸がでてきた。そしたら、玄関の向こうからも「くぁ」というしろの欠伸をする声が聞こえた。

今度は俺の欠伸がしろに移ったんだと思うと俺は嬉しくなって「にゃあ」と鳴いた。


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