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心苦しくも私もゆとり世代でございます。
・・・・・

     ○


4月。春の部署に1人の新人が配属された。
それはもう見事にフレッシュで、もぎたての果実のようにみずみずしい笑顔をたたえた青年。
彼は、なんとまだ19歳であった。
全身全霊で若さを醸し出すその青年に、春日の居る部署は全員が口を開け放つしかなかった。

本来、春の勤める会社は新卒は大学にしか求人を出していない企業であったが、昨年から採用方式が変わり、高校にも求人を出すようになっていた。
その採用方式で見事初の採用実績を勝ち取ったのがこの19歳の青年。

「……う、わぁ」

そのみずみずしさを目の当たりにして、春は初めて自分の学生時代を遠い過去のように感じた。つい最近のように感じていた学生時代(しかも大学)ですら、最早4年前の出来事。19歳なんてのは、ついこないだまで高校生だ。
スーツが初々しいなんてものじゃない。
浮きまくっている。
そんな、太陽を見るかのように目を細めた大人達の視線など、19歳は気にする様子もなくひたすら輝き続けた。

『じゃあ、彼の事は春日くんに任せたよ』
『………え。あ。は、はい』

突然の上司からの任命。
咄嗟に頷く春。
イエスマンも4年目ともなれば、板に付く。呼吸をするように「イエス」と言ってしまう、悲しいサラリーマンの性である。
ぺかーっと笑顔を浮かべる19歳を前に、春日はただぽかんとするしかできなかった。
頭の中には「こないだまで高校生、こないだまで高校生」という、この瞬間のキーワードランキング1位が駆け廻っていた。

『香椎花 園です!よろしくお願いします!』
『あ、俺は春日 春です。よろしくね。香椎花さん』

そう言って春日が若さを前に圧倒されながら言うと、その瞬間、香椎花はぽかんとした顔の後ケラケラと笑い始めた。いや、もう本当に。ケラケラという擬音はこの為にあったのかと言わんばかりのケラケラ具合。

『なんすか!香椎花さんて!あはは!ウケる!小学校の先生じゃないんすから!ゾノって呼んでくださいよ!』
『え、ええ?いや、そんな友達じゃないだから』
『えー!水臭いっすよ!春さーん!春センパーイ』

ポンポンポン!そう、春日の腕を叩いてくる気鋭の新人に春は目がテンであった。
勢いもさることながら、キャラが濃すぎる。
「これが若さと言うことか!」と未だに若手に分類される筈の春でさえ慄くより他なかった。

しかし、10代の頃から老け顔で年上にしか見られてこなかった春である。
見た目のせいで自然と周りからも若手扱いされる事が少なく、気持ち的には既に30代を越え40近いような気さえしていた。
しかし、それはどう足掻いても「気がしている」だけであり、実質春には40代分の経験値などありはしないのだ。
あまりの想定外の自体に、春がどうすれば良いのかと辺りを見渡せば、皆一様に「教育係自分じゃなくてよかったーーー!」という顔を前面に浮かべていた。

『…………』

その日からである、春の愉快で楽しい孤軍奮闘が始まったのは。


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あきゅろす。
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