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つまりは、明日からまた1週間が始まるということ。
つまりは、素っ裸で出会ったということ。

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“誓いの指輪”というものがある。
それは、和真の存在していた地球という世界で言うならば、将来を誓い合った男女が生涯を共に生きる証として互いの左手の薬指にはめるものである。
そして、和真が突如として呼び出されたこの世界。
名を“サモトラケ”と言うのだが、この世界で言う誓いの指輪も、根源的な意味は大して地球と変わらない。

そう、根源的な意味。
すなわち生涯を共に生きる証として二者の間で交わされるもの、という点においては地球でいう誓いの指輪と違えるところはないのだ。
ただ、それが「愛を誓い合った者同士」という二者を指す地球と、サモトラケではその部分の関係性が大きく異なった。

サモトラケで使用される誓いの指輪の一般的な用途は「主従関係の確立」である。
誓いの指輪は魔力による契約を行った際、召喚したもの、されたものの左手の薬指に自然と現れる互いを縛る鎖のようなものだ。
もちろん、使役される側である召喚されたものに、その指輪を外す事はできない。
ただ、召喚した方、つまり召喚師もそれは同じだ。
召喚の儀の際、召喚師の指に現れる指輪も、召喚師自身では外す事ができない。
故に、誓いの指輪は主従互いの指に嵌められた指輪しか外す事ができないのである。

地球における誓いの指輪は、将来を誓い合い互いの指に嵌める。

だがしかし、サモトラケの誓いの指輪は互いに決別を決めた時のみ外す事ができる魔力の契約なのだ。
















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和真が己の全裸に気付いて数秒後、それは彼の思考が羞恥に埋め尽くされた瞬間でもあった。
人間は相対的な生き物だとよく言うが、それはまさにその通りである。
和真の傍に立つ二人の男が余りにも和真の全裸をスルーするが故に流されそうになるが、服を着た者の中に全裸の自分。
これは余りにも耐えがたい状況だ。
これが、皆服を脱ぎ湯船につかる浴場ならばきっと和真とて自分の全裸具合にここまで羞恥心を覚えたりしなかっただろう。

しかし、ここは風呂ではなく至って普通の屋内だ。
しかも、すっぱだかなのは自分一人だ。

「っっっ!!」

和真は先程までの体の痛みなどまるでなかったように、スカイブルーの瞳の男に捕まれた手を振り払い、あわてて股間を隠した。
先程まで地面に仰向けで大の字だった事を思うと、本当に羞恥で死にそうだ。
そんなに大々的にご披露できるほど和真は自分のモノに自信などない。

そんな和真の様子に、和真から乱暴に手を振り払われた男は一瞬きょとんとした表情で和真の様子を見つめていたが、すぐに我に返ると慌てて自分の着ていた紺色の上着を和真にかけた。

「寒かったよな、気付かなくてごめんな」

そう言って、やはりどこか嬉しそうな表情で和真を見つめてくるスカイブルーの男に、和真は眉をしかめた。
この男は一体自分のこの状況を見て何をほざいているのであろうか。
寒いなんてとんでもない。
羞恥で逆に熱いくらいである。

言いたい事、叫びたい事は山ほどある。
しかし和真は一切言葉を発する事ができなかった。
自分の置かれた状況、理解できない目の前の男たち。
人間、何か判断を下すだけの情報が極端に少ないと何の言葉も発せられなくなるのかと和真は混乱する頭の片隅で思った。

何か発言をしようにも何をどう言っていいのかわからない。
故に、和真はただ肩に掛けられたスカイブルーの男の服にそっと手を乗せる事しかできなかった。

「つーか、色がねぇ指輪なんて初めて見たぜ。大丈夫か、コレ」

そう言って訝しげな目で和真を見下ろしてくるもう一方の男に、和真は更に腹の奥がムカムカと苛立つのを感じた。
この男、完全に和真をモノとして扱っている。
先程の“コレ”という言い草もそうだが、和真を見るその目は明らかに対等なモノを見る目ではない。

そんな男とは対照的に、スカイブルーの男は座り込む和真の目の前に腰を下ろすと興味津津といったようにペタペタと和真の顔やら頭やらに触れてくる。
突然伸びてきた手に、一瞬ビクリと体を強張らせた和真であったが、男の手が余りにも楽しげに触れてくるため甘んじて受け入れる事しかできなかった。

「見た目は……俺達と変わらないんだね。同じヒトガタでも先輩のクムゼさんとはまた違った雰囲気だ」

「クムゼとお前の呼びだした意味わかんねぇ奴を一緒にすんな」

そう言って、男は自らの左手の薬指にはめられた指輪をそっと撫でると、どこか得意気な目で和真を見下ろしてきた。
そんな動作や視線の一つ一つが、やはり和真の苛立ちの琴線に触れて仕方がなかった。


「つーか、アソシエ。お前早くソイツに名前つけて契約完了しろ。俺もお前の契約完了をさっさと上に報告する必要がある」

「あ、はい!えっと………名前、名前かぁ」


そう呟くや否や、和真の目の前で、何故か和真の名前を必死に考え始めたアソシエという男に、和真は初めてこの不可思議な状況の中口を開く事ができた。


「……和真」

「へ?」
「あ?」

「俺は飯塚和真だ。勝手に俺の名前を変えようとすんな」


先程までの苛立ちも相成って、和真の口から出てきた言葉は和真の思っているよりも低く、なんとも不機嫌そうな色に染められていた。
この何が何だかわからない状況で、和真とて恐怖や不安が全く無いわけではない。
しかし、腹が立つものは立つし我慢できないものはできない。

そう。
まさに、この素直な感情の起伏が和真が上司に目を付けられた所以でもあるのだが、和真はやはりどうしても自分の納得のいかない事に対する己の感情は上手くコントロールできないのだ。

それはもう、若さ故としか言えない程に。

「……カズマ?」

「うん」

「君の、名前?」

そう、どこかぽかんとした表情で答えるアソシエに和真は無言で頷く。
この会話と言っていいのかわからない程薄い言葉のやり取りが、和真とアソシエの初めての会話であった。

「カズマ、カズマ、カズマ、カズマ……カズマ」

コクリと頷いた和真に、アソシエはただひたすらに和真の名前を呟く。
それはもう真剣な表情で。
それは、どこか和真が日本で呼ばれる名前のイントネーションと少しだけ異なっていたが、何故か耳馴染みしないその音の羅列が、和真には静かに染みわたるように心地よく聞こえた。


「カズマ」


そう、最後に噛みしめるように呟いたアソシエはまたしても最初に和真を見た時に見せたあの笑顔を浮かべた。
嬉しくて、嬉しくて仕方がないという。
あの、こちらが恥ずかしくなるくらいの笑顔を。


「カズマ、これから……一生、よろしくな」

「……………え?」


なんとも、重くて仕方がない言葉と共に。

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あきゅろす。
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