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つまりは、明日からまた1週間が始まるということ。
つまりは、寝過したということ。
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(あったけー)




そう、頭の片隅で和真は心地よさを感じていた。
4月にしては最近肌寒かった。
しかし、今はどうだろう。

ものすごく、あたたかい。
それが何とも心地よい。

そう、和真が全身に感じる心地よさに朝特有のまどろみに身をまかせた時だった。

ピタリ。

「………んぁ?」

何かが和真の体に触れた。
その触れた“何か”が、現在の心地よい暖かさの源であると、和真は覚醒しきれない頭で自然と感じ取った。
そして、和真は夢うつつの状態から少しだけ目を開く。

出張先のベッドの上。
そこには自分以外の存在等、あろう筈もない……




「…………っうああああ!!」

「っうー、なんだ……?あさ……か?」


目を開けた瞬間に飛び込んできた光景。
それは、昨日の夜夢で見た、あの金髪碧眼の男の顔であった。
厳密にいえば、ぐっすりと眠りについていた金髪碧眼

アソシエだった。

ぐるぐるぐるぐる。
和真はまたしても混乱していた。
確か、自分はあのクソ上司との出張先で一人号泣しながら眠りについた

筈、

なのに、

「え、また夢!?また!?」

「…………カズマ、おきたのか?」

和真の叫び声などものともせず、アソシエは絶賛寝ぼけていた。
フワフワとした思考の中、アソシエはベッドの上で混乱の境地に立つ和真に手を伸ばす。

「カズマ……、もうすこしねよう……」

どこか舌っ足らずな口調でそう言うと、和真の頬にそっと指を這わせた。
そして、そのままうっすらと開かれていた目を閉じて行く。
そんなアソシエに和真はハッキリと覚醒した頭で慌てふためいた。

「いやいやいやいや!ちょっ!アソシエ起きてくれ!夢の中に俺を置いていくな!」

「ぅー……すー」

「起きろ!おい!アソシエ!夢の中の人が良い夢みてますみたいな顔すんな!」


和真は混乱する頭で、アソシエの居るこの現状を昨日の夢の続きだと認識した。
夢の続き。
同じ登場人物。
同じ場所。
この夢は酷く現実離れしている。
しかし、それと同じくらい現実的な夢だ。

和真はアソシエの姿を見た瞬間、起きている現実世界では靄のかかったように思い出せなかった昨日の夢をはっきりと思い出した。

『その獣を二人で殺しなさい』

そう、和真は無謀にも突如として現れた見たこともない獣との戦闘に強制参加させられたのだ。
あの後、

獣に押し倒され食われようとした後、

あの後どうなった。

「あの獣は!?どうなった!?俺死んだんじゃないよな!?ここ天国!?」

「………すー」

「アーソーシーエ!!」


和真が半泣きでアソシエの体を必死に揺さぶるが、アソシエは「ぁー」とか「ぅー」とか小さく呻くだけで一切目を開けようとしない。
そんなアソシエに、和真は混乱からは解放されてきたものの、それとは反比例するように不安が大きく募ってきた。
目をあけた瞬間見知った人間が居たからよかったものの、その相手は和真を置いてきぼりにして今や夢の中だ。

状況がわからない今、和真は一人と変わらぬこの状況に酷く狼狽した。

「……おい、おいったらー。アソシエー起きろよー」

和真はヘタリとベッドの上に座り込み、一向に起きないアソシエの頭をボスボス叩く。
カーテン越しだが、窓の外を見る限り日はけっこう高くに上っている。
今は何時くらいなのだろうか。


そう、和真がいつもの癖で時計を捜した時だった。


バタン!!

「アソシエェェェェェェェェ!!!!」

「っ!?」
「っへ!?」


突然、勢いよくアソシエの部屋の扉が開いたと同時に、激しい怒声が部屋中に響き渡った。
さすがのアシソエもその激しい怒声が響き渡った瞬間、体をビクリと揺さぶるとそのまま驚いたようにベッドから飛び起きた。
その隣で和真は突然の来訪者に心底ビビって思わず、アソシエの腕を必死に掴む。


「…ク、クムゼさん……?お、おはようございます、あの、どうして、ここに?」

クムゼ。
寝ぼけたようにアソシエの呟いたその固有名詞に、和真は改めて扉の前に立つ来訪者を見た。
そこには、まさかの真っ黄色の髪で、まさかのリーゼントヘアを携えた、どこかどうみても“カタギではない”人種が立っていた。
そんな男が今や二人の前に眉間にしわを寄せ、それはもう人相の悪い顔で立ちはだかっている。
善良な一般市民たる和真がビビらない筈がない。

「おい、アソシエ……おはようにしてはもう遅い時間だ。この意味わかるか?」

「……へ?」


突然の来訪者の、その地を這うような低い声にアソシエは勢いよく窓の外を見た。
カーテン越しに見える強い光は、日が高くまで上っている事を示している。
その状況にしばらくポカンとしていたアソシエだったが、次の瞬間にはその表情は真っ青に色を変えていた。


「うあああああ!!!ち、遅刻する!内定式に遅刻する!!!」

「もう遅刻してんだよ!だから俺が来た!リスフランを待たせるたぁいい度胸だな!?アソシエ!」

「すすすすすみません!今すぐ準備して向かいます!」

アソシエは土下座せん勢いで来訪者に頭を下げると、そのまま勢いよくベッドから飛びだした。
その瞬間、和真が必死にしがみついていたアソシエの腕が力強く引っ張られる。


「カズマ!君も急いで着替えるんだ!」

「いきなり何事だよ!つか、あの人なに!?ヤクザ!?」

「あー、えーっと、詳しい事はまたあとで説明するから……だから!腕を離して!とりあえず、彼は危ない人でもなんでもないから!」

「うそだ!?あれどう見てもカタギじゃないよ!もうここやだ……!!」


そう和真がアソシエの腕にしがみついて泣きそうな表情を浮かべた時。
和真の後頭部に激しい衝撃が走った。
その瞬間、和真はアソシエの腕を掴んでいた手を離し必死に頭を押さえた。

「ってぇぇ!!」

「テメェがアソシエの契約者か?名前は?」

後頭部を押さえながらひたすら痛がる和真に、衝撃の原因であるクムゼは冷めた目で和真を見下ろしながら尋ねた。
そんな二人の様子にアソシエはタンスから着替えを取り出しながら「カズマです!」と和真の代わりに叫んだ。
しかし、クムゼはその返事をよしとせず頭を押さえる和真の両腕を掴みあげると、そのままベッドの上に仰向けに縛りつけた。
その瞬間、和真の目の前に破壊的に人相の悪いクムゼの顔がズイと近づけられる。

「テメェ、先輩に向かって自己紹介の一つもできねぇたぁいい度胸だ。あ?」

「っひ!せ、先輩……?」

先輩。
そのどうにもこの場にはそぐわない単語に、和真はビビりながらも疑問を口にする。
その間も至近距離につめられたクムゼのリーゼントが和真の額スレスレまで近づいており、それが和真には居心地が悪くて仕方がなかった。

「おうよ、アソシエはリスフランの後輩。で、俺はリスフランの契約者。つったらアソシエの契約者であるテメェは必然的に俺の後輩だろうが!ほら!挨拶しろこのノロマがっ!」

「っは、はいぃぃ!」

その瞬間、今までがっつり拘束されていた全身が、一気に解放されるとベッドの上で素早く正座した。
正直、昨日の夢でも出てきたあの気に食わないリスフランという男の契約者というだけで先輩扱いを強要されるなんてまっぴらだったが、さすがの和真もこうもあからさまにカタギではないような雰囲気の人間には逆らえない。
だって、怖いではないか。

「昨日付けでアソシエの契約者になりました、飯塚 和真と申します。わからない事ばかりでこれからご迷惑をお掛けすると思いますが、今後ともどうぞよろしくお願い致します!」

そう、最初に会社で部署の配属が決定した際に死ぬほど言わされた自己紹介をなぞるように、和真は自然とピシリと挨拶をした。
何度も何度も言い過ぎて1年たった今でも自然と口をついて出るこの自己紹介。

まさか、こんなところで役に立つとは思わなかった。

そう、アソシエが下げていた頭をゆっくり上げると、そこにはポカンと口を開けたクムゼの顔があった。
まさに、予想外というのがありありと浮かぶその表情に和真が反応に困っていると、次の瞬間和真の頭がガシリとクムゼに掴まれていた。


「おーおー!なんだよ、リスフランがすげー生意気な奴っつってたからどんな奴かと思えば、ちゃんとした奴じゃねーか!ごめんなー、おどかしてー」

「っうあ、っははい……」

そう、先程とは一転してニコニコと笑顔を浮かべ和真の頭を撫でまわすクムゼに和真はどうする事もできず、されるがままに撫でまわされていた。

「わからない事があったら俺になんでも聞けよ?先輩である俺がなんでも教えてやっからよー!」

どうやら、このクムゼという男、ずいぶん兄貴肌な性分であるようだ。
自分の下の者には、礼儀とやる気さえあればしっかりとサポートをする。
それは、まるで……
ぐしゃぐしゃと頭を撫でてくるクムゼの笑顔に、和真は何故か寝る前にメールを貰った手代木の事をふと思い出していた。

(手代木さん……)

「はい……、先輩。よろしくおねがいします」

和真は少しばかり泣きたい気分で頭の上の大きな手を享受すると、なんとも言えない気持で己の拳を握りしめた。
和真のそんな表情は頭を撫でられ俯いていたせいで、クムゼには見えなかった。

「で、クムゼさん……」

「あ?どうしたアソシエ」


そんな先輩後輩の関係性が確立した二人の隣では、すっかり制服に着替え終わったアソシエが半分泣きそうな顔でクムゼを見た。
その表情はもう真っ青と言ってよかった。


「内定式、終わっちゃまいますよね!?」

「………あぁぁぁぁ!!そうだった!リスフラン待たせてんだった!」


アソシエにつられてクムゼも一瞬にして顔をこわばらせると、まだ寝間着のままの和真を見やり一瞬無言になると、そのまま和真の腕を引っ張って部屋を飛び出した。
和真には、先輩を懐かしむ郷愁の時間さえ与えられはしなかった。

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あきゅろす。
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