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番外編「」
「午後2時の背中は危険!」

駅まで向かういつもの道のりを、白木原は息を乱す事も立ち止まる事も、俺を下ろす事もなくいつも通りの歩調で歩き続ける。
そんな白木原の背中に、俺はガッシリしがみつく。
そんな俺達を、道行く通行人達がチラチラ見て行く。
しかし、そんな視線、10代の俺にはなんともない。
何故なら、男子高校生はけっこう何をやっても許される生き物だからだ。

「なぁ。白木原」

「なんだよ、新谷」

「あんなー、なんで俺はオメガだと思う?」

「知るかよ、んな事。じゃあ、俺は何でアルファなんだよ」

「そんな事、俺が知るわけねーじゃん」

「だろ?知る訳ねーけど、俺はアルファだし、お前はオメガなんだよ」

白木原のいつも通り投げやりな言葉に、俺は「むむむ」と口を尖らせると、ふと思った事を言った。

「俺とお前ってエッチしたら子供出来るよな?」

「まぁ、出来るだろうな。アルファとオメガだし」

「そしたらさ、どんな子供が出来ると思う?俺みたいにチビなのかな、お前みたいにデカイのかな」

「あー、お前の穴から出てくるから小せぇんじゃねぇの?」

「失敬な!俺の穴から出る時はチビでも!外に出たら太陽の光とかで大きく成長するんだよ!」

「俺達のガキは植物かよ」

白木原が笑ったのが、背中からも伝わった。
背中が微かに揺れるし、白木原の声が笑っていたから。
そんな白木原に、俺は嬉しくなってまだまだ話し続ける。

「白木原ん家はとーちゃんデカイじゃん?じゃあ、母ちゃんはどうだったの?俺ん家はとーちゃんチビだったって、母ちゃんが言ってた。だから俺もチビなんだって」

「あー、どうだったかな。母さんの身長、あんましよく覚えてねーんだよな。とりあえず、小学校高学年で、俺は母さんと同じくらいだったような」

「じゃあ、白木原の母ちゃんも多分高い方なんだろうね」

俺は白木原の家で見た、白木原の母ちゃんの写真を思い出してそう言った。
すらっとしてて、綺麗な人だった。
白木原が12歳の時に、病気で死んだらしい。

「なぁ、白木原」

俺が白木原の母ちゃんについて、色々聞こうとした時だ。
それまで、立ち止まることなく歩いていた白木原がピタリとその場に立ち止まった。
そして、ただ一心に道路の向こう側を見ている。

「…………」

「どうした?白木原?」

そう、俺が白木原の見ている方向を見た時。
そこには見慣れた白木原の父ちゃんが居た。
白木原の父ちゃんは、白木原より更にデカイからすぐわかる。

「あれ、白木原の父ちゃんじゃん!おーい!」

俺が白木原の背中から大声で叫んでみるが、白木原の父ちゃんは聞こえなかったのか立ち止まる事なく歩いていく。しかも、丁度物陰で見えなかったが、白木原の父ちゃんの横には別の男の人が一緒に居た。
白木原の父ちゃんの隣のせいか、すごくチビに見えるその後姿。

「なにやってんだよ、親父」

そう言う白木原の、今まで聞いた事のないような低い声が俺の耳に届いた。
それはどこか怒気を帯びていて、なんとも冷たい声だった。

「……あ」


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