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番外編「」
(1)

「おい、新谷。今日、親父帰ってこねぇから泊まってけよ」

それは、白木原了から新谷楽に対する、いつもの何てことない誘いだった。

「行くー!泊まるー!」

そしてこれも、新谷楽から白木原了に対する、いつもの返事だ。

教室の一角で行われるこの友人同士のなんてことない掛け合い。
教室中に響き渡る楽しげな声と共に、これでもかという程輝く満面の笑みを浮かべる新谷に、クラスメイト達は「遊んで貰えてよかったな!」と、新谷にどこか小学生でも相手にしているような口調で声をかける。
そんな周りに対し新谷は「勘違いすんな!俺が白木原と遊んでやんの!」と叫び、どこか不満げな新谷の叫びが教室にこだまする時には、既に白木原は教室を後にしていた。

「うああ!白木原待ってよ!置いていかないでー!」

そう言って半泣で教室中の机に激突しながら駆けだした新谷を見送るクラスメイト達は、その背中を見てまた笑った。
教室を出て廊下の遥か彼方に白木原の背中を見つけた新谷は、そのまま一直線に白木原の背中めがけて突撃した。

「いてぇよ、バカ」
「うへへー、楽しみだー」

まぁ、彼が突撃したところで新谷より遥かに体格の勝る白木原はビクともしない。
それを分かっているが故に、新谷は手加減無く、いつも全身全霊で白木原へと飛び込むのだ。

「帰り、ちょっと薬局寄ってくぞ」
「おう!何か買うのか?」

並んで歩きながら腕を引っ張ったり、抱きついたりと一時たりともじっとしない新谷に、白木原はいちいち答える事も反応することもなく、ただ彼のペースで歩を進める。
傍から見ればうざい事この上ないじゃれつきであろう。
そして、白木原自身も多少はうざいと感じているじゃれつき。

しかし。

「ウゼェんだよ、ばか」
「ふへへ」

白木原の表情は、薄くであるが喜色を帯びていた。
それは他人から見れば、いつもと変わらない飄々とした彼の姿に他ならない。
しかし、彼に近しい者であればすぐ気付く事ができるだろう。

白木原の機嫌はすこぶる良い、と。
浮かれていると言っても良かった。

白木原は駐輪場に止まる自分の自転車の鍵を外し、隣でちょこまかと動く新谷の顔を見やった。

「ほら、さっさと乗れ。行くぞ」
「なぁ、薬局で何買うのー?」

“今日、親父帰って来ねぇから泊まってけよ”
彼のいつもの新谷への誘い文句。
それは同時に。

「ゴム。こないだ使い切っただろうが」

いつもの、セックスへの誘い文句でもあった。
そして、そんな白木原の誘いに対する新谷の答えはいつも変わらない。

「そだったな!白木原が盛るからすぐなくなる!」

“行くー!泊まるー!”
新谷は白木原にイエスとしか返さない。
元気に、満面の笑みを浮かべ。

「お前がもっともっとって腰振るからだろうが、このバカ」


白木原と新谷。
クラスメイト達が笑顔で見送るこの二人は、親友であり、兄弟のようでもあり、恋人のようでもあり、単なるセックスフレンドのようでもあり。
ともかく、二人は互いが互いに一緒に居る事が家族以上に当たり前な関係であった。

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あきゅろす。
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