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番外編「」
大好き、野伏間くん(2)


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「ダメだって何度言ったらわかるんだい?」

「先生!俺は我慢した!ずっと我慢した!」

俺は野伏間君の部屋のチャイムを押して出て来た白衣姿の保険医に向かって叫び散らした。
何で恋人の俺が恋人の一大事にかけつけられなくて、こんな金髪のチャラそうな保険医にその座を奪われないといけないんだ!

俺はいやだいやだと野伏間君の部屋の前で地団太を踏むと「困った」とばかりに顎に手を添える保険医の姿を睨んだ。

我慢した。
俺はずっと我慢した。


「先生は昨日、明日なら良いって言った!」

「……今日も熱があるからダメだ。西山君に移ったら生徒会も困るだろ?」

「……先生はウソツキだ!」

野伏間君が熱を出した。
インフルエンザらしい。
もちろん、野伏間君の姿は学校にはない。
そういえば、今日から野伏間君の部屋は隔離するんだと、保険医が言っていた。

3日前に。



そう、俺は3日間も野伏間君の顔を見ていない。

俺は野伏間君がインフルエンザにかかった初日から野伏間君の部屋へ行った。
そしたら、今のように保険医が今日は熱が高いからダメだって言った。
明日なら大丈夫かも、なんて言われて俺はその言葉を信じて、今日みたいに買ってきたものを先生に渡して、自分の部屋から野伏間君に「明日ぜったいお見舞い行くね」とメールした。

返事はなかった。


次の日、俺は同じように野伏間君のお見舞いに行った。
先生は「今日も熱が高いから会うのはダメ」と言った。でも俺は言う事を聞かずに入ろうとした。
そしやら、その時野伏間君からメールが来た。
『カイチョー、部屋の外で騒がないで。うるさい。今日はもう寝るからお見舞いはいい』


俺はなんだか悲しくなったが『うるさい』と言われたのがショックで、それになんかしょぼんとなってしまって、大人しく隣の自分の部屋に戻った。
野伏間君は俺が居なくても寂しくなさそうな感じだ。
保険医が居るから寂しくないのかもしれないって思ったら、俺はもっと悲しくなった。


そして、今日。

俺はもう我慢の限界だった。
先生はウソツキだし、野伏間君は俺なんかいなくても平気そうだし。
でも、野伏間君は平気かもしれないけど俺は寂しくて死にそうだ。

そこんとこを、野伏間君は全然わかってない!
俺は兎のように繊細な高校3年生なのだという事をわかってない!


「先生の屍を越えて、俺は行く!」

「いや、俺を勝手に倒すべき相手にしないで」

「ゆくぞ!」

そう言って俺は先生に襲いかかった。
若さと言う武器が俺にはある。
チャラい運動してなさそうな保険医になど、俺が負ける筈がなかろうが!
なんたって俺は現役イケメン生徒会長なんだぜ!

「そらっ」

「っえ!?」

俺は先生のきゃしゃだと思っていた腕に、見事ふっとばされていた。
俺の背中が向かいの扉に激突する。

リアルに「かはっ」ってなったわ!
ドラゴンボールの戦闘シーンを見事再現してしまったかのような状態だわ!
ものの見事に俺負けたんですけど!?
掛け声の「そらっ」とか言う軽いノリで、俺ってば結構な勢いで吹っ飛ばされたよ!

「……いだい」

「いい加減に帰りなさい。ちなみに俺は昔柔道をやっていました」

「まーさかの!それなら手加減してください!?」

素人吹っ飛ばすとかなんなのこの人!?
白木原か!?お前は白木原か!?
俺は腕の中に抱えていた野伏間君へのお土産が周りに散らばってしまったのを見て、なんだか徐々に悲しくなってきてしまった。


3日も会えないなんて、俺は寂しいよ。
野伏間君がいなきゃ、学校、つまんないよ。
野伏間君は、ちがうのか。

「ひぃぃぃん、ひぃぃぃん」

「泣いたー!泣くなんて反則だよ!こんなとこ誰かに見られたら俺が悪いやつみたいじゃん!」

「ひぃぃぃん、野伏、間君にあい、たいようう」

俺はあらん限りの声で泣き喚いた。
高校生にもなって泣き喚くなど見苦しいにも程があるが、押しても引いても襲いかかってもダメなら、もう泣くよりほかない。
これでまた『うるさい』ってメールが来たら、もっと大声で泣いてしまうかもしれないが。



そう俺が顔を両手で覆いながら泣いていると、それまで締まっていた保険医の後の扉がゆっくりと開いた。


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あきゅろす。
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