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転生してみたものの
仕事を押し付けられたものの




お前昔さ、夏休みの宿題、一式全部忘れた事あったよな。

せっかく31日に俺の家に集まって二人で終わらせたのに。

宿題忘れた……って言ったあの時のお前の顔、今でも思い出すとスゲェ笑えてくるよ。


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第7話:仕事を押し付けられたものの
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イチローが体育係になると宣言してから約1時間。

俺達は、やっと全ての委員会を決め終える事が出来た。

途中、どうしても女子の中から学級委員長になりたい人が出てこず、一郎のイライラが募った場面もあったが、じゃんけんという原始的かつ運まかせによる手法により選ばれた女子が泣きながら学級委員になる事で、全てが丸く収まった。

というか、そんなに嫌なのだろうか。
学級委員長。

あまりにシクシク泣くその姿が可哀想になった俺は、係決めでざわつく教室の中「発表とか面倒な仕事は俺がするから大丈夫だよ」とコソリと慰めておいた。
それで、やっと泣きやんだ女の子は少し赤くなりながら、俺の顔を見て小さくありがとうと呟いた。

んん。
やっぱり女の子は可愛いな、おい。

やっぱ、男はスポーツだけじゃねぇよ。
中身の良さもモテ度数に関わってくるんだ。

そんなワケで、小学生男子にしては高い精神年齢から発揮できる女子への優しい態度に、俺はイチロー程でないがソコソコ女子にモテている。

しかし悲しいかな。

少々はモテている俺だが、相手が小学生じゃちょっと範疇外というやつだ。

それに、今は素直に女子に対して優しさを表現できていない困った小学生男子達だが、これも後2年程すれば皆同様にこのくらいの態度はとれるようになってくる。

そうなれば俺の存在もすぐに影の薄い平凡男子に逆戻りだ。

考えたくないが、多分今が俺にとっての人生最大のモテ期であるに違いない。

切なすぎるぜ。

そんな俺の切ない心情を挟みながら、やっと全ての係が決まった頃には今日するべき学活の内容は全て終了していた。

そして、まさかまさかの今日の授業もこれで終了。

新学期が始まってからの学校は2〜3日はこうして午前授業だけで終わるので楽でいい。

俺が記念すべき最初の帰りの会での号令をかけようとした時。

黒板の横にある職員専用の机に座って居た一郎が、少しだけ慌てた様子で教壇へと立って俺たちを見渡した。


「本当なら、ここで新学期最初の帰りの会を学級委員さんにしてもらう筈でしたが」


そう言いながら俺を見てくる一郎の目には、やはり少しだけ喜色を帯びているのが見てとれた。

おいおい、本当にお前は一体俺で何を企んでいるんだよ。


「残念ながら、思いのほか係決めに時間がかかってしまって、先生はこの後すぐに職員会議に行かないといけません。ですので、今日は帰りの会はナシです」


一郎の言葉にクラスの雰囲気が一気に明るくなる。
まぁ、確かに帰りの会、朝の会といったHRの時間はダルイし、特に帰りの会なんてのは早く帰りたい小学生にとって邪魔な時間でしかない。

それにしても、昼までだとスゲェこの時間お腹がすく。
早く帰ってラーメンでも作りたい。

俺がグーグーなる腹に、ぼんやりと窓の外に意識を移した時だった。


「あ、でも。ひとつだけ学級委員長さんにお願いがあります」


あぁ、絶対なんか来ると思ったよ!

俺は明らかに俺の方を見ながら口角を上げる一郎に表情が引きつるのを感じると、そのまま社交辞令的な笑みを浮かべて一郎の言葉を待った。


「今日、回収する筈だった漢字ドリルと計算ドリルの宿題を集めて……そうですね。職員会議の終わる1時頃に私のところへ持ってきてください」

「………はい」


俺は早速言い渡されたパシリ業務にしぶしぶ頷くと、黒板の上にある時計を見てため息をついた。

現在、12時10分

あぁもう。
せっかく早く帰って野菜ラーメンでも作ろうと思ってたのに。

1時までは学校に拘束されんのか。

そう思うと更に俺の腹はグゥと鳴り響く。
まぁ、外で他のクラスがガヤガヤ言ってるおかげで、教室中に腹の虫が鳴り響くなんて羞恥に見舞われる事はなかったが。


「それでは、よろしくお願いしますね。学級委員長さん。では今日の授業もこれで終わり。みなさん、さようなら」


一郎はそう言うやいなや、俺達生徒のさよならの返事も聞くことなく教室から出て行った。

一郎の出て行った少しだけ緊張のほぐれた教室の中。

俺は一つだけ溜息をつくと、一郎から言い渡された雑用を果たすべく椅子から立ち上がった。


「えっと、宿題を集めるから、皆帰る前に俺のとこに漢ドと計ド置いて帰って。あと、今日宿題忘れた人は、一応俺に言って帰ってね。1時までなら、まだ俺は学校に居るから、それまでに持ってきてもらえば間に合うから」


俺の言葉に、皆そろって俺の机に宿題を置いていく。

フムフム。
さすがに昨日の一郎の怖さに宿題を忘れてくるなんて愚か者は居ないようだ。
俺の机の上で、ノートが一気に積み上がって行く。

「(あ、そう言えば)」

ひとしきり積み上げ終わった宿題の山を前に、俺はハタともう一人の学級委員長の存在を思い出した。
するとその瞬間、もう一人の学級委員長である彼女が宿題を持って俺の目の前に気まずそうに立っていた。

そして、彼女はオズオズとした動作で俺の机の上へ宿題を置いた。

あぁ、可哀想に。
俺が一郎に目を付けられたせいで、とんだとばっちりを食ってしまったのだ。

申し訳なさ以外の何物でもない。
多分、というか絶対この子もお腹をすかせている筈だ。

だって、宿題出した瞬間、微かだけど女の子のお腹から空腹を知らせる音が聞こえてきたのだから。

どうせ、俺もお腹をすかせた女の子を1時まで一緒に待たせる事など毛頭考えていない。
二人で待つなんて、時間の無駄以外の何物でもないのだから。

俺はショボンとした表情で俺の隣に立つ彼女に笑顔で口を開いた。


「これは俺がしとくから、先に帰ってていいよ?」

「え、でも」

「どうせ後は持って行くだけだから」

つか、俺のせいだし気にしないでください、小学生女子。

俺が「いいって、いいって」と続けざまに言うと、女の子は申し訳なさそうに、しかし空腹も相まって「ごめんね」と何度も謝りながら教室を後にした。

そんなワケで教室のまた残っているのは俺と……


「けーたろ…」

「何だよ、早くイチローも宿題出せよ」

俺がトントンとノートをまとめながら言うと、イチローは珍しくモゾモゾと何か呟くばかりでハッキリしない態度をとり続けていた。

この様子、まさか。


「えーっとな、俺、今日、寝坊してな……」

「……忘れたのか?」

「………うん」


この野郎!!!
俺は「ごめぇぇん!けーたろ!」と必死に抱きついてくるイチローのほっぺたを思い切りつねってやると、更に頭をベシベシと何度も叩いてやった。


「昨日せっかく俺が手伝ってやったのに!」

「うぅぅぅ、本当にごめんなさいぃぃ!!」

「だから昨日すぐにランドセルに入れろよって言ったろーが!じゃなきゃ忘れるぞって!」


若干涙目で、どうしよう、どうしようと俺にすがりついてくるイチローに俺は大きなため息をつくと、それまで叩いていた頭をポンポンと優しく撫でてやった。

そう言えば、一郎の方ともこんな事あった気がするなぁ。
一郎の時は確か、夏休みの宿題だった気がするが。

本当にどこまで一郎同士シンクロする気だよ。


俺はグズグズ泣きそう……と言うかちょっとだけ泣きだしたイチローをなだめながら懐かしい思いに浸ると、そのまま極力優しい声でイチローに言ってやった。

「ほら、俺、1時までこの教室に居るから、ランドセル此処に置いて走って取りに帰ってこい」

「……!!」

「お前の足なら楽勝だろ?」

「うん!」


俺の言葉にイチローはパァと表情を明るくすると、そのまま教室を矢のように去って行った。

さて、イチローが戻ってくるまで俺は何をしよう。
俺は春の心地よい暖かさの中、沢山の宿題ノートの前でぼんやりと、イチローの走り抜ける校庭を眺めていた。


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