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転生してみたものの
学級委員になってみたものの



そういや、昔……あぁ、あれは確か小学校の修学旅行だったかな。

俺と一郎の二人で部屋を抜け出して勝手に外で遊びまわった事あっただろ?

結局すぐに先生に見つかってスゲー怒られたけど、あの時。

部屋抜け出してお前と顔見合せた瞬間、俺、思ったんだ。

コイツとだったら何だってやれるってね。


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第6話:学級委員になってみたものの
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あぁ、これは。
なんというか、一郎の奴。
確実に、俺の事見てるよな。

これ、自意識過剰じゃないよな……!?


俺は、何故かひたすら俺の事を見てくる一郎に「やっぱ昨日余計な事言うんじゃなかった」と頭を抱えたくなる衝動に駆られた。

しかし、後悔先に立たずという言葉もある。
やってしまったものは、もうどうしようもない。
俺は必死に自分にそう言い聞かせると、向けられる鋭い視線を無視しジッとこの気まずい空間に耐えた。

つーか、昨日から俺こんなんばっかだな。
新学期早々、胃に穴でも開いたらどう責任とってくれんだよ、本当に。

そう、俺が本格的に現実逃避に思考を飛ばし始めた時だった。

今までジッと俺の方を見ていた一郎がフイと俺の方から視線を外し、板書の続きを書くために、また俺達に背を向けた。

それと同時に、教室中に蔓延していた緊張の糸がプツリと切れるのを肌で感じた。


というか、ヤバいなコレは。
俺は完璧に一郎に目ぇ付けられたようだ。

もう本当に昨日に戻って、昨日の俺の行動を全てリセットしてやりたい。

今まで何の問題も起こさないように、常に優等生で通っていた俺の安穏とした生活は昨日で終わりを告げてしまったようだ。

あぁ、本当に今までの努力も一郎相手には水の泡と化してしまった。
最悪だな、マジで。

そう、一度目の人生の教訓を見事に受け継いで成長した俺は、極力学校では教師と言う人間には逆らわないように生きてきた。
いや、逆らうどころか俺は常に教師に“しっかりした子”のレッテルを貼られるような生活を送ってきたのだ。

一応俺も前世の人生を合わせると25歳の男と言う事になるので、他人に迷惑だけはかけないよう理性的に教師に接してきたのだ。
その結果が今の“優等生でしっかり者な篠原敬太郎君”を作りあげたワケである。

それに、なんというべきか。
俺の隣で問題ばっか起こす好奇心の塊みたいな幼馴染のお陰で、今では俺も立派なイチローの保護者ポジションだ。

まったく、俺の人生、前世も、現世も“一郎”には振り回されっぱなしだ。


俺は小学生の教室あるまじき静かなクラスの中で小さくため息をつくと、いつの間にか板書を終えた一郎が静かに此方に振り返っていた。


「では、今から皆さんが所属する係と委員会を決めていきますが……とりあえず、最初にクラスの学級委員長を決めましょうか。この後の学活の時間もその学級委員長に進行してもらいます。誰か、立候補はいませんか」

そう言うや否や、一郎はブルブルと肩を震わせる生徒達を値踏みするようにゆっくりと見渡した。

俺がチラリと視線を上げて周りの様子を見てみると、皆一様に一郎と目が合わないように下を向いている。
こうなってくると、もう学級委員長決めは長期戦へと突入する。

只でさえ人気の無い学級委員の仕事に、この状況。

こんな中で自ら手を上げて立候補する奴など居るわけがない。
つーか、居たらソイツはただの空気読めない奴か、はたまた自己犠牲に満ちた女神だ。

と内心思いながらも、俺は既に手を上げてやるつもりで居た。

もちろん俺は後者だ。
このまま時間が過ぎれば、時間の無駄でしかない上に、一郎の機嫌も最低最悪のところまで落ちていくのは目に見えている。
空気を読んで、敢えて自己犠牲の精神で手を上げる俺。

まぁ、腐っても25歳だ。
それくらいやるのが当然と言うものだろう。

この教師になった一郎が俺の知る一郎のままであるなら、アイツはもう既にこの状況にイライラしている筈だ。
一郎は“待つ”という状態が一番嫌いな人間なのだ。

昔、俺が1度目の小学生をしていた時、一郎の家で遊ぶ約束をしていた事がった。
しかし、俺は準備に手間取り一郎の家に向かうのが10分遅れたのだが、その時なんかは余りの待ちきれなさに、一郎は俺の家まで走ってやって来たのだ。

夏の焼けるような炎天下の中、全力疾走で俺の家まで来た一郎は玄関を開けた瞬間「遅い!」と叫ぶなり、出てきた俺に殴りかかってきたのである。

そして一通り俺を叩いた後も、そりゃあもう一郎のご立腹は続き。
その後も、俺は一郎の機嫌を直させるのに苦労したものだ。

そんな事がってから、俺は一郎との約束は常に時間通り、もしくは時間前に行うようになった。

まぁ、その癖、一郎ときたら自分はよく遅刻していた。
まったく、勝手な奴だ。

そんなワケで、俺は小さくため息をつきながら手を上げようとしていた。

学級委員と言っても所詮は小学校。
たいした仕事は回ってきやしない。


「先せ「せんせー!せんせー!」


イチロー……!!!

俺の決死の立候補は目の前で大声を上げながら手を上げたイチローによって一気にかき消されていた。

イチロー、お前まさか学級委員に立候補するつもりじゃないだろうな。

ちなみに此処で再度確認したい事がある。
俺が手を上げたのは自己犠牲の女神的気持ちであって、この目の前の好奇心旺盛で空気読めていないヤツの行動原理とは全くの別物を。


「ちっ………何ですか?一郎君」


おいおい、舌打ちって。
昨日より教師の仮面が被れてないぞ、一郎。
確かにイチローはウザいかもしれないが、腐ってもお前は先生だろうが。

俺がそんな事を思いながら空気読めない小さな勇者の背中を見つめていると、突然その背中は消えうせ、いつもの見慣れたイチローの笑顔が俺の目の前にあった。

あれ、何これデジャブか。
昨日も似たような事があったような気がするけど気のせいかな。
誰か気のせいだと言ってくれ。

「せんせー!あのね!学級委員長ならけーたろがいーと思うよ!だって、けーたろ1年生の頃からずーっと学級委員長だもん!」

「へぇ、敬太郎君が」


そう言って俺を見てくる一郎は何故か今までとは違ってニヤリとあくどい笑みを浮かべていた。
あぁ、この笑顔の時の一郎は十中八九何か企んでいる時だ。

よく知ってますとも。

つーか、イチローのヤツ、自分が立候補するわけじゃないのか。
さすがの一郎もそこまで自分の力を過信しているわけではないとわかって俺は一安心だ。


「でね!せんせい!俺、けーたろが学級委員長するなら、俺もしたい!」

「あ゛?」


マジすか。


俺は俺の事を笑顔で見ながら元気よく言い放ったイチローに、ただ目を見開く事しかできなかった。
そして一郎はと言うと、先程まで浮かべていたあくどい笑みは消えうせ、明らかに面倒臭そうな表情を浮かべていた。

昨日初めてこのクラスに来た一郎も、さすがにイチローが学級委員をする事の無謀さと面倒さをよく理解しているようだ。
だって、イチローが立候補した瞬間の一郎の表情とリアクションは、何度も言うようだが全く持って教師のソレではなかったから。

もう素丸出しって感じだったな、あの顔は。

まぁ、結構昨日から丸出しに近いけど。


「ねー!せんせー!いーでしょー!学級委員長は俺とけーたろ!決まり!」


決まり!じゃねぇよ。
お前と学級委員するくらいなら絶対一人でやった方が仕事が楽だ。


「残念ですが、学級委員は各クラス男女1名ずつと決まっていますので、男子二人は無理です。なるならどちらか一人だけです」

「えー!ケチィ!いーじゃん、いーじゃん!どーせ誰もやりたがらないし!なぁ、けーたろ?」

「……イチロー、ちゃんと先生の言う事聞こうよ」

「もう!そうやって、けーたろはすぐ先生の味方するんだ!このいーこちゃんめ!」


いーこちゃんて。
まぁ、確かに先生に目を付けられないように優等生やって生きてきたから、その通りではあるが。
いーこちゃんて。

なんか馬鹿っぽくて嫌だ。

そんな風に俺が一人思考を巡らせていると、ワーワー喚くイチロー越しに対し、ハッキリと苛立ちオーラを垂れ流し始めた一郎が俺の視界に入ってきた。

あぁ、もう。
早くイチローをどうにかしないと、また一郎がやっかいな事になる。

俺は俺の目の前でプンプンと言う擬音が漏れてきそうな怒り方をするイチローに、どうしたものかと考えていると、ふと黒板に書かれた、ある係が目についた。


「イチロー、体育係は?」

「体育係?」

「そう、体育係」


コテリと首をかしげるイチローに、俺は黒板の一か所を指差すとイチローはそれにつられて黒板に目をやった。


「わぁぁ!体育係がある!せんせー!体育係って何する係ですか!」


よし、かかった。
俺はキラキラしながら黒板に目をむけるイチローに内心ガッツポーズをすると、思わず口角があがるのを止められなかった。


「体育係と言うのは、体育の時間に先生の代わりに体操の掛け声をかけたり、準備のお手伝いをするのが仕事です。あとは運動会でも仕事をしてもらいます」

「せんせーの代わりかぁ!スゲー!そんなの4年生まではなかった!」

「そうですね。この係は5年生……高学年にしかありません。なんたって先生の代わりですから」


やたら“先生の代わり”を強調する一郎に、俺はうまいうまいと声を上げそうになった。
イチローは好奇心旺盛故に、やたらと新しいモノに挑戦したがる傾向がある。

それに、イチローはこの学年で、まぁ、一言でいえばスポーツ万能のヒーローと言うポジションに位置しているのだ。

小学生と言うのは勉強が出来るより、スポーツが出来る方が学年のヒーローとして崇められる節がある。
その点、イチローはリレーじゃいつも1位だし、どんな競技をやらせてもそつなくこなす。

言ってしまえばスポーツ馬鹿だ。

そんなイチローに、5年生の女子の多くは恋をしてると言っても過言じゃない。

それくらいイチローはスポーツ万能なのだ。

まぁ蛇足だが、これは現在教師として教壇に立っている一郎もそうだった。

いつもリレーはアンカーを任され、体育でバスケや野球など球技を行えば一郎のチームは必ず一郎の活躍により勝利を納めていた。

まったく、一郎って名前の奴は皆、スポーツが万能なのだろうか。
体育の時間、常に皆の視線をかっさらっていた一郎を思い出すと、少しばかり羨ましい気持ちになった。

なんたって俺は現在進行形で、運動会じゃその他大勢モブ小学生だから。


そんなわけで、イチローにこの体育係を紹介した瞬間、既に二つの係の椅子は埋められたわけだ。


「俺!体育係したい!」


ほらね。

イチローが嬉しそうに叫んだ瞬間。


俺はバチリと合った得意気な一郎の目に、昔、二人で部屋を抜け出す事に成功した、あの修学旅行の夜を思い出したのであった。


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