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転生してみたものの
二人の一郎とは言ったものの




よく二人で受験勉強みたいな事してたけどさ。

俺、お前に教えながら何気に成績上がったりしてたんだぜ。

お前の成績上げるためにやってたのに、笑っちゃうよな。






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第3話:二人の一郎とは言ったものの
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『今日から、このクラスを担当する事になった野田一郎です。みなさん、1年間よろしくお願いします』


そうなおざりな敬語と口調で言い放った俺の第一の人生の幼馴染の自己紹介は、その不機嫌そうな教師あるまじき表情によって静まり返ったクラスの中に染み渡って行った。

俺はと言うと、突然の懐かしい幼馴染との再会に開いた口が塞がらないという状態を地で行くような表情で奴を見つめていた。


おいおいおい。
何故にお前が此処に居る。


俺がそんな事をグルグルと考えていると、その静まり返った教室の中でただ一人全く一郎の表情を気にしない奴が勢いよく手を上げた。

それはもちろん、俺の第二の幼馴染である瀬川一郎で。

あぁぁ、なんか同じ名前で表記が第一の一郎と被って面倒だ。
とりあえず、第二の一郎方はイチローとカタカナ発音と表記で呼ぶ事にしよう。

そんなわけで、イチローはこのピンと張りつめた糸のような空間をぶち破るように椅子から立ち上がると、俺からは見えないが、多分満面の笑みを浮かべながら声高に叫んでいた。


『せんせー!オレと同じ名前だー!!』

『それがどうかしましたか。瀬川一郎君』

『こう言うのオレなんて言うか知ってる!うんめーって言うんだ!』

『……とりあえず座りなさい』


なんだこのカオスな会話。

てか、運命ってお前。

一郎なんて名前珍しくもなんともないだろ、イチロー。
だってお前ん家の隣の犬の名前の名前も“一郎”だったじゃないか。

それともお前は何だ。
お前はあの犬とも運命を感じたのか。


と、イチローの突拍子もない発言はさておき、一郎のヤツめ。
アイツ、マジで小学校教諭か。

全く言葉に子供への配慮と、優しさが無いぞ。
一応敬語を使ってはいるが、それが逆に冷たさを演出していて、既にイチロー以外の生徒は泣きそうな表情を浮かべている奴さえいる。

本当にコイツは教員免許の資格を有する教師か。


俺が今度は別の意味で開いた口が塞がらなくなっていると、イチローは更に何を思ったのか勢いよく『はいはいはい!』と手を上げた。

つーか、お前もよくめげないな。

その打たれ強さ、マジで尊敬するよ。


しかしだ、イチロー。

お前ちょっと空気読め。

一郎の目ぇ見てみろ。

あれ、口じゃ何も言ってないけど目でハッキリと言ってるぞ。


『黙れ、クソガキ』ってな!

つーわけで、少し黙ろうか、イチロー。

しかし、そんな俺の背後からの願いは届くことなく、イチローは勢いよく一郎に向かって口を開いていた。


『せんせーに質問します!』

『……なんですか、瀬川一郎君』

『せんせーは何歳ですか!』

『25歳です』

『せんせーはケッコンしてますか!』

『してません』

『せんせーは好きな女の子いますか!』

『いません』

『せんせーはこいびといますか!』

『たくさん居ます』

『せんせー友達居ますか!』

『居ます』

『せんせー兄弟いますか!』

『いません』

『せんせー……んん?もう質問はないかなぁ』

『そうですか。なら座りなさい』


スゲェ。
俺は目の前で繰り広げられたカオスでスピーディーな質問と答えの応酬に唖然とするしかなかった。

なんだコレは。

なんだか突っ込み所満載なイチローの質問もさることながら、一郎の答えの方にもイロイロ問題点が見え隠れしたような気がするのは気のせいだろうか。

俺はぱちぱちと目を瞬かせながら二人の一郎に目を向けていると、二人は互いに向かい合ったまま微動だにしなかった。


つーか、おい。
イチロー。
お前もう質問ないなら座れ。

そろそろお前も空気を読みなさい。
怯えてブルブルしてる周りの子を見習いなさい。

俺は余りにも座る気配を見せないイチローに、後ろから軽く椅子を蹴ってやった。
すると、その衝撃でやっとピクリと肩を震わせたイチローが勢いよく俺の方を振り返った。


『けーたろも先生に質問ある?』

『は?!』


いや、ねぇよ。
つーかやめろ。
一郎が俺の方まで見てるだろうが!


そんな俺の焦りを余所にイチローは俺の腕を掴むと無理やり俺を立たせた。

『せんせー!コイツ俺の幼馴染のけーたろ!けーたろもせんせーに質問あるって!』

『!!??』


だからねぇよ!


『……何ですか?篠原敬太郎君』


うわお、一郎のこの目久しぶりに見たわ。
このイライラした目。

確か最後に見たのは俺が過去問のプリントを奴に押し付けた時だから……まぁ10年前か。

ほんと、懐かしいな。


『ほら、けーたろ!質問しろよ!』


だからねぇって!

俺が若干現実逃避しかけたところを、イチローは元気な声で俺を呼び戻す。

あぁ、もう本当にコイツは。

俺は酷くおかしなこの状況に、またチラリと教壇に立つ一郎の目を見た時だった。


『(そう言えば……)』


俺は少しばかりあの不機嫌そうな目に、昔の、中学時代の一郎を重ねると、いつの間にか俺の口は勝手に動いていた。


『先生、高校は、どこに行きましたか?』


いつの間にか放たれた俺の質問。
そうだ、俺は気になっていたのだ。

一郎が、俺の死んだあときちんと高校に行けたのだろうかと。

いや、多分教師になっている姿からするときちんと行ってはいるのだろうが。


でも、俺は気になっていたんだ。

一郎、お前。

俺が死んだあと、一人でもちゃんと受験勉強したか?


そんな想いで思わず漏れた質問だった。
しかし、俺はその瞬間ビクリと体を震わせる羽目になった。


一郎は……一郎の目は、先程よりも更に鋭さを増して俺を見つめていたのだ。

あぁ、この目。
よく知ってるよ。
これは、

これは一郎が最強に怒った時の目だってね。

昔、俺が一郎のプリンを黙って食った時もこんな目ぇしてた。


『明義高校ですが……何か文句でもあんのか?』

『……………い、え』


うわお。
一郎、お前後半敬語忘れてますけど。

俺はそれはもうぶっ殺してやろうかと言いたげな一郎の目を見ながら一体何故に一郎がそんなに怒っているのか考えていると、一郎はフイと俺から目を逸らした。


『とりあえず、二人とも。いい加減に座りなさい』

『はーい!』

『……はい』


そう言って今度は大人しく席に着いたイチローに、俺はバクバクとうるさい心臓を抑えながら席に着いた。

何故だか、イチローには高校ネタは禁句なようだ。

何があったかは知らないが、これからは絶対触れないでおこう。

うん、10年振りにあの目を見たが、久しぶりだとかなり怖い。

つーか、あれは俺じゃなかったら絶対泣いてたね。
ワンワン泣いてたね。

あれ、絶対小学生に向ける目じゃねぇもん。


一郎は俺たちが席に着いた事を確認すると、また不機嫌そうな表情となおざりな敬語で今後のスケジュールについて話始めた。

それにしても。


『(明義高校かぁ……一郎、頑張ったんだなぁ)』


俺は一郎の姿を見ながらそう思うと、先程一郎が言った言葉に、少しだけ気持ちが浮上するのを感じた。

明義高校と言えば、県下で最もランクの低い公立高校として知られて居た高校であったが、実は俺と一郎の志望校でもあった。

まぁ、俺はそこそこ学校の授業は聞いていたし、余裕で合格圏内に居たが、あの一郎は全くそうではなかったのだ。

一郎は3年になってからほとんど学校には来ず、他中と喧嘩ばっかりしていたせいで、学校の授業を全くと言っていいほど聞いていなかった。
だから必然的に一郎の偏差値は最悪最低なラインを低空飛行し、明義ですら常に学力診断テストではE判定と言う最低の判定を叩きだしていた。


そんな一郎に幼馴染である俺は、チョロチョロと過去問のプリントを一郎に届け少しずつでもいいから勉強をするように仕向けていた。

学校に来ない一郎の代わりに、俺がプリントを届ける。

そんで、次の日に教科書と答えを持ち寄って一緒に答え合わせをする。

基本、受験前は毎日この繰り返しだった。


まぁ、これは母子家庭である一郎の家の経済状況から、公立でなければ高校進学の道は危ういんだと俺の母に相談してきた一郎の母親の言葉が原点となっている。

『あの子に勉強を教えてあげて』

そう、必死に泣きそうな顔で頼みこんできた一郎の母親の顔が今でも鮮明に浮かんでくる。

そんなわけで、俺は奴の幼馴染として、ほとんど毎日プリントを届けては一緒に答え合わせをして勉強をしていた。


そんな一郎がきちんと明義高校へ行ってくれた。

俺が死んだら絶対勉強なんかしないだろうなぁと思っていた俺は、それが嬉しくて仕方なかった。

あの時の一郎の偏差値から考えると、明義高校合格なんて、本当に夢のようだ。


『(まぁ、それから考えると一郎が小学校の先生なんてのはカオス過ぎる事実だけどな)』


俺はそんな事を考えながら、ぼんやりとHRの時間を過ごして行った。


まぁ、そのHRの間中、一郎の痛い視線が突き刺さっていたのは言うまでもないが。

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あきゅろす。
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