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転生してみたものの
家中



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幕間:家中
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篠原 敬太郎の母親、篠原 律子はグッスリと眠る息子のベッドの隣で、ゆっくりと息子の頭を撫でていた。

現在、午後1時50分。

眠る息子、敬太郎は、律子が思っている以上に熱が上がってしまったようで、時折、呼吸が苦しそうに乱れている。
そんな息子を起こさぬように、律子はやはり、静かに敬太郎の頭を撫でる。

家庭訪問を終えたら、急いで病院に連れて行った方が良いのかもしれない。
今、こんなに熱が上がっているのだから、夜はもっと高熱になってしまうかもしれない。

そう思う律子であったが、敬太郎にそれを伝えた場合の息子の反応を予想し、胸が締め付けられるような気持ちになった。

『お母さん、俺、大丈夫だから』

きっと敬太郎は、律子にそう言うだろう。
この小さな我が子は、どんな時も自分達にそう告げ、一人でこ抱え込んでしまうのだ。

自分は親であるにもかかわらず、この子供に親として認められていない。

小さな体で、親の自分も知らない大きな何かを抱え込んでいるように見える我が子を、律子はどうにもならない気持ちで見守る事しかできないのだ。

『お母さん』

そう呼ばれる前。
律子は敬太郎に『おばさん』と呼ばれて居た。

あの時も、自分は親として認められていないんだと嘆き、日々涙を流していた。
しかし、今思うと、あの頃の方が敬太郎も随分子供らしかった。
『帰りたい、帰りたい』とどこか遠くを見て嘆く息子に、懸命に律子は向き合おうとした。

泣き、喚き、怒り、そして叫ぶ。

そういった子供の持つ、最も力強く直接的な表現方法を駆使し、敬太郎は自分達に何かを求めているようであった。
しかし、それはある日を境にピタリと止んだ。

『お母さん』

そう自分の事を呼ぶようになった息子は、今までとは見違えるほど聞き分けの良い、一般的に言う“いい子”になっていた。
しかし、それと引き換えに敬太郎は自分の感情に蓋をしたように、律子に本心をぶつけなくなった。

お母さん、お母さん。

そう呼ぶ息子の声は、いつもどこか固かった。
これならば、まだ本心をぶつけてくれていたあの日の頃の方がよっぽど親らしい事ができた。
自分を親だと思えた。
しかし、どんなに律子が嘆いても、敬太郎は“いい子”の仮面を取り払ってくれない。

「………あなたは、私の息子よ」

そう言って、眠る息子の頭を撫でる瞬間だけ律子はいっぱしの親になる事ができる。

「敬太郎……、あなたは何を抱えているの?」

そう静かに律子が呟いた時、玄関から機械的なインターホンの音が鳴り響いた。

「……敬太郎」


すぐ戻ってくるからね。
律子は眠る敬太郎にそっと告げると、急いで玄関へと足を走らせた。


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