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転生してみたものの
道中


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幕間:道中
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野田 一郎はどうにもならないモヤモヤとした気持ちを抱えて、その道中を歩いていた。

現在、午後1時55分。

一郎は、瀬川 一郎宅の家庭訪問を終え、車一台通るのがやっとであろう、古い道路を一人歩いている。
本来ならば車で各家庭まで回るはずなのだが、どうにも瀬川家と、次に訪れる予定である篠原 敬太郎の家は目と鼻の先にあるため、わざわざ車を出す必要性を感じなかった。

故に、イチローの母親の厚意により、一郎は瀬川家の敷地内に車を置かせてもらっている。

スタスタスタ。

聞こえるのは自分の靴と地面が擦れる音だけ。
そんな静かな道路の端で、一郎は先程のイチローの家での奇妙な出来事に思考を埋め尽くされていた。

『うちの子、トマトは昔から大好きなんですよ?』

そう口を開く母親の顔は、とても嘘をついているようには見えず、それどころか一郎の言っている事が何の事だか全く分かっていないと言う表情だった。
ただ、隣に座るイチローだけは、その後、終始うつむいたままで、その後一切その口を開く事はなかった。

別に気にする程の事でもない。
たかだか生徒の好き嫌いの話だ。

どんなにそう思いこもうとしても、一郎には気になって仕方なかった。

確かに昨日の給食の時間、イチローはトマトが嫌いだと言い、そのトマトを敬太郎へと食べさせていた。
何故、イチローはトマトが嫌いなどと嘘をついたのか。

あれは一体何だったのか。
この事を、敬太郎は知っているのだろうか。
そこまで考えて、一郎は少しだけ歩調を緩めた。

もしかして、敬太郎に何らかの原因があるのではないだろうか。
いや、原因と言っても一体何の為に。

一郎は、あの少し大人びた、自分の幼馴染と似た少年の事を頭に思い浮かべた。

あぁ、何だろう。
何かひっかかる。

だが、考えても考えても何の答も示さない自分の脳内に一郎は考える事を一旦止めた。
そして、歩調を緩めていた足も、それと同時にピタリと止める。

「……ここか」

一郎は先程のイチローの家とは全く異なる完璧に洋風な一軒家を前に、そう呟くと、そのまま入口にあるインターホンに手を伸ばした。


何故か、自分の疑問の答えはこの中にあるような気がしてならなかった。


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あきゅろす。
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