転生してみたものの
死んでみたものの
ずっと、一緒に歳をとっていくもんだと
漠然と思ってた。
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第1話:死んでみたものの
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「おい、一郎。せめて、受験終わるまではおとなしくしてろよ」
「うっせーな!いちいち世話焼いてくんな!」
俺の言葉に鋭い視線を返してきた、幼馴染。
コイツは名前を野田一郎という。
奴は15歳と言うまだまだ成長途中の癖に、既に175センチを超えるデカイ体で俺を見下ろしてきた。
その腕やら顔やらには大小さまざまな傷が浮かんでおり、その多くが出血を止め血の塊を貼りつかせていた。
あぁ、もう。
また今日も学校サボって喧嘩してたのか。
見慣れた一郎の家の玄関を前に俺は大きくため息をつくと、とりあえず俺は本来の目的を思い出し、肩に掛けていた使い古された自分の通学バックに手をつっこんだ。
俺が何故わざわざこの幼馴染の家に来たのかと言えばきちんと訳がある。
俺は鞄の中から学校で配られた高校入試の過去問のプリントを取り出すと、途端に嫌そうな顔をした一郎にソレを押し付けた。
「ほら、これちゃんとやっとけ」
「げ、またかよ……」
「ほら、受験終わるまでの辛抱だ。とりあえずまた明日来るから、それまでにソレ終わらせとけよ。明日答え配るらしいから一緒に答え合わせしよーぜ」
「だりー」
「んな事言うな。高校くらい行っとかないと、社会的にダメだって」
「……あー、マジダリィ」
自分の将来の癖に、ダルイとは何事だ。
しかし、俺は何も言わない。
結局一郎は、ダルイだの何だの言いながらきちんとプリントは終わらせる奴だ。
やる時はやる。
それが俺の幼馴染だ。
いくらコイツが中学に入って素行が悪くなろうと。
髪を金色に染め上げようと。
いつの間にかこの地区じゃ有名な不良になっていようと。
その癖に女子にはモテまくろうと。
コイツは昔から俺の知ってる一郎となんら変わらない。
「じゃ、俺帰るから」
「おー。とりあえず、いつもワリーな」
いつもの一郎の礼を背中で受け流しながら、俺は家路を急いだ。
どうせ、今日のプリントも分からんところだらけだろう。
アイツに教える為に、俺もあのプリントを解かねばなるまい。
俺も学校の授業は爆睡しっぱなしで、全く授業聞いてないからな。
まぁ、とりあえず高校は最低ランクの明義くらいには二人で合格したい。
俺はそんな事を考えながらぼんやりといつもの帰り道を歩いていた。
たんぼばっかの田舎道。
街灯なんか数十メートル毎に申し訳程度に設置されるのみで、辺りはもう真っ暗だ。
俺はいつもより少しだけ足を急がせながら、クルリと後ろを振り返った。
振り返った先には、もう一郎は居ない。
まぁ、あいつが見送りなんてする筈もない。
俺はもう一度クルリと一回転して前を向くと、真っ暗に染まった夜空を見上げた。
ポツポツと星が見える。
いつもと変わらぬ、夜の風景。
「……もう、高校受験かぁ」
しみじみと漏れたその言葉は、何故か妙な存在感をもって俺の頭の中に響き渡った。
別に何の特徴も無い少々頭の悪い俺。
立派な不良様になり下がった少々頭の悪い俺の幼馴染。
ガキの頃からずっと一緒だったのに、今では全く違う俺達。
しかし、俺はこれからも一郎と同じ高校に行って、そして同じようにどっかに就職して、同じように年をとっていくもんだと信じて疑わなかった。
いや、違う。
当たり前の事過ぎて意識した事すらなかった。
俺は当たり前の日常の帰り道の中、当たり前だと意識すらした事のなかった将来像を、何故か思い浮かべて歩いていた。
普段と変わりのない日常。
当たり前のように来る明日。
思い描く将来の姿。
隣に立つ幼馴染。
そして、その隣に立つ俺。
だが、それは大きな間違いだった。
この後、俺は飲酒運転の車に撥ねられ、そのままあっさり命を落とした。
真っ暗な夜道。
真っ黒な学ラン姿の俺は運転手に認識される筈もなく、突然襲ってきた衝撃に体が宙を舞うのを、どこか他人事のように感じていた。
ドクドクと俺の体から流れる血液。
既に痛いなんて感覚はなくて、ただ意識だけは確実に遠のいていて……。
そうして次の瞬間、俺は確信した。
俺、今死んだ、って。
同じように高校に行って、同じようにどっかに就職して、同じように年をとる筈だった幼馴染とはあっさりと俺の方が命の活動限界を迎えて終わりとなってしまったのだ。
まさか、次の日に約束していた答え合わせすら、出来なくなるほどとは。
当事者である俺もビックリだ。
こうして、俺は15年と言う短い人生に幕を閉じた
筈だった。
なのに、何故だろうか。
神様のイタズラか、それとも俺の頭がおかしいのか。
俺は今、また新しい人生を迎えようとしていた。
俺は、記憶を持ったまま、また次の人生のスタートを切った。
産声を上げ、嬉し泣きをする母親の隣に寝かされ、父親とおもしき男に抱きかかえられ、そして俺はひたすら泣いた。
まぁ、赤ん坊だから。
自分の意志とは関係なく反射の勢いでオイオイ泣いた。
……まぁ、車にひかれて死んだと思った瞬間息苦しい場所から引きずり出されたんだ。
もうビックリしすぎて泣くほかない。
泣きながら、一郎とやる筈だったプリントの答え合わせはできそうにないなぁとか考えていると、何故かまた泣けてきて更にオイオイ泣いた。
「元気な男の子ですよー」
とか周りで嬉しそうに言う医者や看護師共。
ちょっと空気読め。
こんなに泣いてんだから慰めろ。
笑うな。
一郎とやる筈だった過去問のプリント持ってこい。
とまぁ、無駄な事ばっか考えているうちに俺の第2の人生は否応なくスタートを切ったわけで。
もう疑問だらけで始まった俺の人生は、イロイロしているうちに10年の歳月を経ていた。
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「けーたろ!俺らまた同じクラスだな!」
「おう!そーだな!一郎!」
俺の肩を、そら嬉しそうに叩いて新しい教室へ向かう俺の第2の幼馴染
瀬川一郎。
まさか第2の幼馴染まで一郎って名前だとは思いもよらなかった。
急展開な転生劇から早10年。
前世の15年を合わせると既に25歳と言う年齢でありながら、俺は2度目となる小学5年生の新学期を、同じく一郎と言う名前の幼馴染と共に過ごしている。
ちなみに俺の今回の名前は篠原敬太郎と言う。
まぁ、可もなく不可も無い名前で、順風満帆な人生を送って来たと言えるのではないだろうか。
俺は出席番号順で決められた新しい教室の席に座ると、丁度俺の前に座る一郎がニコニコとした表情で振り返ってきた。
「なぁなぁ、俺らの新しい担任、どんなんかなー?」
「さぁ。俺は別に去年と同じ佐竹先生でいいや」
「えー!佐竹はもーいーよ!飽きた!新しい先生とかがいーなぁ!」
キャッキャと楽しそうにはしゃぐ一郎を、俺は微笑ましいなぁと思いながら見ていると、いつの間にか教室には生徒全員が席についていた。
皆、一様に新しい担任が誰なのかとワクワクしている。
まぁ、俺も気にならない事はないが、正直どうでもいい。
なんたって俺、2回目の小学校人生ですから。
もう、本当にどうでもいい。
「あ!今日、始業式で早くがっこー終わるから、終わったらけーたろん家行っていー?」
「いいよ。何、ゲームする?」
「違う!春休みの宿題手伝って!」
「はぁ?漢字と計算ドリルしかなかったのに、お前やってねーの?」
「うん!だからけーたろ!手伝って!」
そう言って笑う一郎に、俺は仕方ないなぁと呟くと一郎はいつものように悪びれずに「ごめん!」と笑うのだった。
幼馴染とは言ったものの、前世の記憶を持つ俺としては、この一郎は正直弟のような気分で付き合っている。
いや、一郎だけじゃない。
周りのクラスメイト全員かな。
俺がそんな事を考えていると突然教室の扉がガラリと開けられた。
その瞬間、騒がしかった教室が一気に静かになる。
俺の方を向いていた一郎も目を輝かせて前を向いた。
おーお。
そんなに新しい先生が楽しみか。
そう俺が思った時だった。
カツカツカツ
そう、静かな足音を響かせて入ってきた人物に俺は一気に目を見開いた。
あれは。
「今日から、このクラスを担当する事になった野田一郎です。みなさん、1年間よろしくお願いします」
俺の第1の人生の幼馴染
野田一郎だった。
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