転生してみたものの
拒絶してみたものの
作文、見せ合おうなって言った。
そしたら、けーたろはわかったって言った。
なのに、作文を書き終わっても、けーたろは作文を見せてくれなかった。
たった、それだけの事だった。
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第15話:拒絶してみたものの
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※イチロー視点
俺は、突然その場に倒れてしまったけーたろを、何もできずに見ている事しかできなかった。
周りに居るクラスメイトはビックリし過ぎて皆してワーワー騒いでる。
けど、俺はそれがとても遠くで聞こえているような、自分だけどこか遠くでこの状況を見ているような変な感覚になっていた。
けーたろ、倒れる瞬間、俺の事を凄く傷ついたような目でみてた。
そんで、少しだけ泣いてた。
……ねぇ、何でけーたろは泣いたの?
ねぇ俺、さっき……けーたろに、なんて言った?
俺が徐々にハッキリしてくる記憶に、少しだけ吐きそうになった時。
突然、俺の後ろからグシャリと頭に手を乗せられたのを感じた。
「………せんせー」
俺は、自分でもすぐわかるほど情けない声で俺の頭に手を乗せる先生を見上げた。
きっと、せんせーは俺の事怒るんだ。
けーたろがこんなになったの、俺のせいだし。
アルコールランプも割っちゃった。
だから……俺は。
いっぱい、怒られるんだ。
俺がそんな事を考えながらせんせーを見ていると、先生は俺の頭から手をどかし、俺の前で倒れているけーたろに近付いた。
俺からじゃ、けーたろに向いている先生の顔は見えない。
けど、せんせーとけーたろは仲良しだから、心配そうな顔をしてるんだ、きっと。
いつの間にかうるさかった周りの奴らも、今はせんせーの動きを黙って見ている。
シンとする理科室の中、せんせーは倒れているけーたろをそっと起き上らせると、そのまま自分の背中におんぶするように抱え込んだ。
その最中も、けーたろが目を覚ます事はない。
ぐったりしている。
「今日の実験は中止!全員、もとあった場所に用具を直すぞー。先生は、ちょっと今から保健室に行ってくるからそれまでに片付けを終わらせておく事!先生が戻ってきたら実験のDVDがあるからそれ見るぞ!」
「…………せんせー……」
先生はけーたろをおぶったまま、いつもの調子で俺達に指示を出す。
そんなせんせーに俺は先程より、むしろ不安が増していくのを感じた。
なんで怒らないの?
何で何も聞かないの?
せんせーが、けーたろを連れてっちゃうの………?
よくわからない不安が俺の気持ちを埋め尽くす。
せんせーの背中でグッタリしているけーたろが、このまませんせーに連れていかれて、もう二度と戻ってこないような気がして。
本当に怖い気持ちになった。
そんな事を考えながら、俺がずーっと先生の事を見過ぎていたのだろう。
今までクラス全員を見渡して「先生が帰って来るまでに片付けやっとけよ」と指示を出していた先生の目が、スッと俺を捕えた。
その目は、やっぱり俺を怒るような、責めるような目ではなく、いつもと同じような明るい、優しい目をしていた。
「イチロー、大丈夫だよ」
「………」
何が?
全然、大丈夫じゃない。
俺はけーたろに酷い事を言った。
そして、せんせーはけーたろを連れてちゃう。
全然、大丈夫じゃない。
ぐるぐるぐるぐる、
本当に気持ち悪くなってきた。
「……せんせー……、俺……」
「大丈夫だ。……すぐ、仲直りできる」
そう言って笑ったせんせーの言葉に、俺はブンブンと勢いよく頭を横に振った。
できっこない。
仲直りなんかできっこない。
けーたろはきっと許してくれない。
もう、きっと俺となんかと口きいてくれない。
もう、遊んでくれない。
仲直りなんか、できっこない。
「イチロー、大丈夫だ。……絶対、仲直りできる」
「……ぅぇ、ぇぇ、でき、なぃ……できない……ぅぇ、っひく」
みんなの前で泣くなんて凄く恥ずかしい事だ。
だけど、俺はいつの間にか泣いていた。
できない、できないって言いながら声だけ必死に抑えて泣いた。
みんな見てる。
みんなの前で泣くなんて。
けど、涙が止まらないんだ。
「……イチロー、大丈夫だ。先生を信じろ」
「……う、ぇっ、できな、いよぉぉ……」
作文、見せてって言ったのにけーたろは見せてくれなかった。
たった、それだけの事。
けど、俺はどうしても作文を見せようとしないけーたろに不安になったんだ。
けーたろは、別の誰かの事を作文に書いたんじゃないかって。
だから、俺に見られたくないんじゃないかって。
俺はけーたろの事大好きだ。
ずーっと一緒だったんだ。
俺の、一番の友達だ。
でも、
でも……そう思ってるのは俺だけでけーたろはそう思ってないのかもしれないって。
そう思ったら不安になった。
それに最近、けーたろはせんせーと話してると凄く楽しそうな顔をするから。
だから、俺はせんせーにけーたろを取られるかもしれないって思った。
せんせー、けーたろを取らないでよ。
けーたろは俺の幼馴染だよ。
俺の、幼馴染だもん。
「うぇぇん……っひく、できないよ……でき、ないっ」
「イチロー、大丈夫だから」
そう言って、けーたろをおぶったまま、片手で俺の頭を撫でる先生の手は……本当に優しくて。
俺は、いつまでたっても泣きやむ事ができなかった。
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