転生してみたものの
ぼくの友達
「ごめん」だけが仲直りの言葉じゃない。
小学生のころは簡単にできていた事が、今では難しくて仕方がない。
どうやって仲直りしてたっけ。
どうやってまた笑いあってたんだっけ。
少年は全然わからなかった。
けれど。
少年はとりあえず走った。
一番大切な幼馴染の元へ。
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幕間:『ぼくの友達。』
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『ぼくの友達。』
篠原 敬太郎
ぼくの友達の一郎は、生まれた病院からずっと一緒の幼馴染です。
保育園も一緒だったし、今までのクラスも全部同じクラスでした。
だから今までたくさんいっしょに遊んできました。
旅行も何回も一緒に行きました。
たくさんケンカもしました。
でも、ケンカしてもいつも次の日には仲直りします。
ぼくが「ごめんね」と言う時もあれば一郎が「ごめんね」と言うときもあります。
だけど、ほとんどは「ごめんね」って言わないで仲直りをしています。
これから何年かたってぼくたちが大きくなったら、もしかすると凄く大きなケンカをしてずっと遊ばなくなったり、おしゃべりをしなくなったりする時がくるかもしれません。
どうしたら仲直りできるのかわからなくなって、悲しくなるかもしれません。
でも、どんなにケンカをしてもぼくは一郎と仲直りして、また遊んだりできるだろうなと思っています。
理由はわかりません。
けど、ぼくはできるならこれから先もずっと一郎と大きくなりたいです。
大人になっても友達で居れたらいいなぁと思います。
一郎はぼくの一番の友達です。
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【10年前】
ピンポーン、ピンポーン。
鳴り響くチャイムの音に、少年はムクリと布団から起き上がった。
どうせ母が出るだろう。
そう思って、体を起こしはしたものの布団の上から動く事はなかった。
ピンポーン、ピンポーン。
しかし、一向にそのチャイムの音が止む事はない。
まったく、母親はどうしたんだ。
少年がそう思って仕方なしに玄関へ向かおうとした時、今まで鳴っていたチャイム音がピタリと止んだ。
誰だかわからないが、今は起き上がる気分じゃなかったので丁度良かった。
用があるならまた来るだろう。
少年はそう思うと、また布団の上にうつぶせになって横たわった。
カチカチカチ
時計の針の音が聞こえてくる。
そう言えば、母親は今日は友達と遊びに行くと言っていた気がする。
道理で静かなわけだ。
この家には……今、自分しかいないのだ。
少年がそう思った瞬間だった。
バタン!!!
突然、少年の部屋の扉が勢いよく開かれる音がした。
『敬太郎!!居るなら出て来いやぁぁ!!』
『っっっ!!!????』
少年、森田 敬太郎は枕から勢いよく顔を上げるとバクバクとうるさい心臓を抱えながら激しく怒声を響かせる音源に目をやった。
『……へ、は!?え……いち、…ぁいや、野、田くん……?』
『……っち!』
敬太郎は此処に居る筈のない、幼馴染を前に戸惑ったように相手の名前……名字を呼ぶ。
そんな敬太郎の姿に突然現れた少年、野田 一郎はイラついたような表情でベッドの上に座りこむ敬太郎を見下ろした。
そんな相手の態度に、敬太郎はビクリと肩を震わせる。
幼馴染だった。
一番仲が良かった。
ずっと一緒だった。
そんな相手は、もう昔の面影すら見当たらない髪型や恰好で何故か突然、敬太郎の家へと現れた。
1年以上もこうして同じ空間に居る事などなかったせいで、二人の間には今まで経験した事の無いような緊張が走る。
しかし、その居心地の悪い緊張を打ち破ったのは他でもない、突然現れた一郎だった。
『敬太郎!!』
『な……なに?』
勢いよく呼ばれた己の名前に、敬太郎は目を見開いたまま入口に立つ一郎を見上げていた。
そんな敬太郎に、一郎は眉間に皺をよせたまま大股で部屋へ足を踏み入れてきた。
そして、一郎が唖然とする敬太郎の目の前まで来た時だった。
『い……一郎って呼べ!』
『は……?』
またしても突然の一郎の発言に敬太郎は目を瞬かせた。
『一郎って呼べよ!!』
再度そう叫んでくる幼馴染に、敬太郎は唖然としたまま、しかし自然と口を動かしていた。
『い……一郎』
そう、敬太郎が一郎の名前を呼んだ瞬間。
今まで眉間に皺を寄せていた一郎の表情が一気に泣きそうに歪められた。
髪型も外見も、そして声も、小学生だったあの頃とは全く違っていたが
その表情だけは昔となんら変わらなかった。
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