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未知との
9.赤点ギリギリです


大岐男子高等学校
2年3組

「堀田いぐさ」

「はーい!はいはい!オレここ!蛭池せんせー!オレここ!」

「うるせぇ!堀田!お前の髪の色なら100メートル先からでもわかるわ!いいからさっさと取りに来い!」

そう言ってイライラしたように手に持った紙をヒラヒラさせる蛭池に、いぐさは勢いよき立ち上がった。

「はーい!!」

「ほらよ」

蛭池によって渡された白い紙。

そしてそれを凝視するいぐさ。

その余りの必死な様子に教室に居る他の生徒もジッといぐさを見つめた。

息をのむ教室。

いぐさの表情が

変わった


「数学40点だー!」

いぐさがテストを広げてクラス中に見せつけるように広げると、その瞬間クラスから歓声が沸き起こった。

「よかったなー!いぐさ!」

「赤点免れたじゃねーか!」

「数学で40点なんてすげーよ!」

周りからの歓声にいぐさは満面の笑顔を作った。

「うん!オレちょーがんばった!みんなもありがと!」

いぐさがそう言うと周りのクラスメイトも自然と笑顔になる。

モヒカンやら銀髪やらスキンヘッドやら、おおよそ普通の高校では全く見られる事のない生徒達が揃っている

そんな教室であったが

確かにそこには

世間では問題児とされる高校生達が

ごく普通の高校生としての顔をみせていた



「(つーか、あかてんて何だ?)」



大岐男子高等学校
1年5組


「アクアス=クリーク」

「はい」

アクアスは笑顔で返事をするとスタスタと名前を呼んだ教師のもとへと歩いていく。


周りの生徒達はアクアスのその様子にゴクリと息を飲む。

テストを手渡す教師も心なしか緊張しているようだ。

アクアスが教師に近づく。

教師によって手渡される白い紙。

アクアスがその紙を受け取る。

アクアスの表情が

変わった


「………40点ですか」


その言葉に周りの温度が一気に下がる。

「今回の現代文のテスト……たしかに俺の得意な評論文ではなく物語文でした。しかしさすがに40点というのは低すぎだとは思いませんかね?ねぇ、先生?」

テストを見つめながら目を細めるアクアスに、テストを手渡した教師はカタカタと震えている。

「い……いや、ほらクリークはアレだろ?帰国子女で最近までイギリスに居たんだろう?し……仕方ないんじゃないかね?」教師の言葉はアクアスは更に目を細める。

こうなってしまっては教師も蛇に睨まれた蛙。

一切の体の動きを封じられたかのように、ピタリと固まってしまった。

「先生……俺が日本に来たのは中1の頃です。それにこんな見るからにレベルの低そうな問題で……40点?日々語彙力の向上に努めている、このオレがですよ?……本当にどうしてなんでしょうねぇ。ねぇ先生?」

そう言って笑っていない目で見つめてくるアクアスに教師はあまりの恐怖に失神寸前であった。

そんな時。

教室から一人の緑色の頭をした生徒が意を決したように立ち上がった。

(余談であるが、その男は咲が最初に団地達と出会った時にバイクやらヒモやらを取りに行く際、散々パシられた団地信者である。)

「……アクアス!赤点じゃないなんてすげーことじゃねぇか!」

その緑頭の男の言葉を皮きりに、今まで黙ってアクアスの様子を窺っていた他の生徒達も次々と立ち上がる。

「そうだよ!アクアスはなんかいつも難しい事言ってて俺いつもスゲーって思ってるんだぜ?俺ら!」

「そいだよ!日本人のオレらより日本語知ってるしな!」

「アクアスの力は学校のテストじゃ計れねぇよ!」

そうだ、そうだ!と回りで叫ぶクラスメイト達にアクアスは細めていた目を見開いた。

「みなさん……」

そう言ってクラスを見渡してアクアスはある事に気付いた。

「ところで…みなさんは一体何点だったんですか?」

微笑みながら尋ねるアクアスにクラスメイト達は一斉に顔を逸らす。

しかし緑頭の男だけは逸らすのが遅れてアクアスとバッチリ目があってしまった。

アクアスは緑頭の男を見て笑顔で目を細めると、穏やかな声で尋ねた。

「桃田くんは一体何点だったんですか?」

「え、俺?………68点」

何気なしな放たれたその言葉に、アクアスの表情が一気に固まった。

その瞬間。

クラス全員の心がひとつになった。

「(正直に答えてんじゃねぇぇぇ!!)」

そんな回りの気持ちを知ってか知らずか桃田は困ったように笑った。

「なんか今回はちょーしよかったみたいでさぁ」

「そうですか………よかったですね?」

アクアスの笑顔が今までより更に深く刻まれる。

その笑顔に周りの生徒達の顔も自然と引きつる。


「ところで桃田くん?」

顔中ピアスだらけの者や体中刺青だらけの者など、おおよそ普通の学校では全く見られる事のない生徒達が揃っている


「ん?なんだアクアス」



そんな教室であったが


「このあと時間はありますか」


世間では問題児とされる高校生達が


「あぁ?あるけど……なんだ?」


やはり問題のある高校生としての顔を


「ちょっと顔をお貸し下さい」


もっていた。

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あきゅろす。
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