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未知との
3.少女と不良1




「(ここ…どこだろう)」






咲を忘れて走り去った霊柩車(というか家族)。


それを懸命に走って追いかけた咲だったが、悲しいかな咲は根っからの運動音痴。
小学校の運動会でも5年連続最下位という不名誉な記録を更新中の咲は8秒程走った後、早々に走るという行為を諦め歩くことに専念した。



そうして、ひたすら適当に歩いている間に咲の周りの風景は最初とは大分変わっていた。


大通りに面し活気に溢れた風景はいつしか細く薄暗い裏路地へと変わり、周りには咲以外の人は見られなくなった。


人を燃やすならきっと人通りが少なくて広い場所に違いないだろう。
咲はそう思い敢えてこのような道を選んでいた。

葬式初体験の咲の中の火葬のイメージは、去年の夏にキャンプでおこなったキャンプファイヤーのような大きな炎の中に祖母の死体を放り投げる、という何とも単純かつ恐ろしいモノだった。


「(もっと奥に行けば……大丈夫。……たぶん)」



そう思い、咲はさっさと奥へと進んで行った。







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「……ったく……ハァ。大河(おおかわ)の奴ら……ちょーし……ハァ…こきやがって」

「そーカリカリすんなよ道本!今日のでだいたい半分くらいはぶっつぶしてやったしー!なー!団地!」

「うっせー、いぐさ。耳元で騒ぐな。オメーの声は公害だ」

「ひでーよ!団地ちょーひでー!俺ちょー傷付いたー!団地がオレの事ちょーイジメる!」

「……だからうっせーっての」



咲が火葬場を探しているのと同時刻、咲のさ迷っている裏路地の最も奥では、ある不良集団がたむろっていた。


「でもさー、この勝利に湧いた喜びの気持ちをテンチョーにも教えたかったなー!なぁ?道本!」


この不良軍団で最もやかましく声を張り上げて喋りまくる堀田いぐさは笑顔で後ろを歩いてくる男に向かって話かけた。


「………ん?ハァハァ……あぁ、まぁ……な。つか…やっべ…目ぇ霞んできた。」


フラフラとなりながら、頭から腕から足からと大量に血を流す十研橋道本は体の両脇を仲間から支えられやっとの事で歩いていた。



「前から思ってたけど、道本っていつもちょー血ぃ出すよな!ウケるー!」

「ウケねーよ!?……ハァ…だいたい今日のは…テメェが倒した奴らを……見境なく放り投げっからこうなったんだろーが?!あ゛ぁ?!こっちはそれ避けながらヤって……たんだっつーの!」

「あはは!道本避けきれてねーじゃん!」

「殺すぞ!テメェ!……ハァハァ。」

「あはははは!道本死に損ないじゃね?!さっき通ってた霊柩車についでに乗せてってもらえばよくね?!」



あははは、と笑ういぐさに道本は青筋を立てながらも無視を決め込む。
これ以上いぐさに付き合う血液量的余裕は一切なかった。

道本は霞む意識の中ここでいい、と脇を支えて居た仲間に言うと、ドサリとその場に座りこんだ。


それを見たいぐさもいつもの自分の定位置に座る。


そして最後に憂鬱そうに歩いていた柏原団地が一番奥の彼の定位置へと座り込んだ。
彼がこの大岐街一帯をシメる不良集団のリーダー的存在であった。

しかしそれは本人が望ん事ではない。

ただ団地の持つ化け物じみた強さに周りが、勝手に彼をリーダーとして祭り上げているに過ぎなかった。
そうでなければ、面倒くさがりの団地がリーダーなどするはずもない。

なにせ、そのうち息をするのも面倒だ、などと言い出すのではないかと仲間内でひそかに囁かれている程だ。
そして他の二人、いぐさと道本はそんな集団が出来る前から団地とつるんで居た、言わば幼なじみのようなものである。

そんな彼らの1日は喧嘩で始まり喧嘩で終わる。


昨日も喧嘩。

今日も喧嘩。

明日も喧嘩。



それが彼らの喜びであり、当たり前の“日常”でもあった。


しかし、そんな彼らの日常に小さな非日常が一歩一歩近づいている事にこの時は誰も気付いてはいなかった。


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