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未知との
9.不機嫌少年と握手
十研橋道本がケータイ片手に家を飛び出したのと同時刻。

午後4時00分
下校〜咲ver〜

『みなさん明日も元気に登校しましょう!あと……咲ちゃん3日間寂しかったよ!だから明日も学校絶対来てね!』

咲は放送でいちごが言った最後の言葉を思い出していた。

ハキハキとした、元気で明るいいちごらしい声。

自分を心配してくれて言ったいちごの言葉。

「(嬉しいな)」

咲は暗かった気持ちが少しだけ明るくなっていくのを感じながら下校していた。

しかし、やはり頭をよぎるのは大依の苦しそうな表情。

「(私が悪いんだ)」

大依にあんな顔をさせたのは紛れもなく自分だ。

せっかく大依が誘ってくれたのに自分は彼の誘いを断ってしまった。

いちごは気にするなと言っていた。

咲ちゃんは悪くない、と。

大依が悪いのだ、と。

だけどやっぱり仕方なくなんかないと咲は思った。

「(……大依くんは優しい…………)」

いちごは大依は優しくなんかないと言っていた。
しかし、咲はそうは考えていなかった。


咲は自分が影でどう言われているか知っていた。

『無表情で怖い』
『何考えてるのかわからない』

『気持ち悪い』

よくそんな言葉が咲の耳に入ってきた。
無口で無表情な事が、その原因であるという事はわかっていた。

そのせいで自分がクラスメート達から浮いてしまっている事も。

でも、だからといって、咲にはどうする事もできなかった。

無口な事も、無表情な事も、咲にはどうやったら変えられるかわからなかった。

そう、自分を変えるなど、そうやすやすと出来る事ではないのだ。

それ故、咲はいつも一人だった。

3年生の時、いちごと出会うまでは学校に居る殆どの時間を一人で過ごしていたのだ。

いちごと仲良くなってからも、いちご以外の人間は、やはり咲には関わろうとはしなかった。

しかし、咲が5年に上がった時そのいちごともクラスが離れてしまった。

教室で咲はまた一人になったのだ。

そんな時、咲の前に大依は現れた。
大依はその頃からクラスの中心に居た。

みんなの中で楽しそうに話す大依を見て、咲は少しだけ大依に憧れを抱いた。

教室で、大依と咲は真逆の存在だった。

だから咲も憧れを抱きこそすれ、自ら大依に関わろうとはしなかったし、関わる事もないだろうと思っていた。

しかし、その予想はすぐに壊された。

クラス委員や、係決めなど新学期特有の 決め事を行っている時の事だ。

全員が一人一つの係や委員会に入って一応は決定したが、あと一つ図書委員の男子のポストだけが余っていた。

それはすなわち誰か男子1人が係の兼任をしなければならない事を意味していた。

それだけでも周りの男子はやりたくない、面倒だと敬遠し、話し合いは長引いていた。

しかし一番話し合いを長引かせていた原因は、図書委員の女子が咲で決定しているという点にあった。

あぁ、またか。

黒板に書かれた自分の名前の隣の空白を見て咲は思った。

そしてヒソヒソと話す周りの声も、咲にはハッキリと聞こえた。

『あんな亡霊みたいなヤツとは絶対いやだ。』

『俺だって……アイツこえぇし。ヤだよ。』

『どーせ最後はジャンケンなんだろーな。マジで負けたくねぇよ。』

『アイツ一人で図書委員やればよくねー?』


あぁ、そっか。
大変な仕事ではないし、自分が一人でやればクラスの誰にも迷惑かけずに済む。

咲はそう思い、先生にその事を伝えようとした時。

『先生ー!俺図書委員やりまーす!』

笑顔で図書委員を立候補する大依がそこには居た。

咲は驚いた。

なんで?

そんな思いで大依を見ていると、周りも同様に驚いた表情で大依を見ていた。

『大依くんが自分から図書委員に立候補してくれるのは、とても助かります。けど大依くんはクラスの委員長もやっているし出来れば他の人が………』

『先生大丈夫だって!図書委員てそんなに忙しい仕事じゃないじゃん!俺やります!』

そう言うや否や、大依は立ち上がって黒板まで駆け寄ると咲の名前の隣に自分の名前をチョークで書き始めた。

咲の隣の空白の空間に、《大依》という名前が書き加えられた。

たったそれだけの事

本当にたったそれだけの事なのに

咲は気持ちが満たされたような気がした。



そして話し合いは無事終了し、そのまま帰りの会を終わらせ下校となった。

人がまばらになった教室で咲がずっと黒板を見つめていると、突入横が声がかけられた。

『図書委員、これからよろしく!』

そこには笑顔で手を差し出す大依が立っていた。

咲が驚いて大依と差し出された手を見ていると大依は再度『よろしく!』と言ってきた。

咲はじっと大依を見つめながら、おそるおそる大依の手を握った。

『よし!じゃ、これから頑張ろうなー!』

笑顔の大依と、暖かい手に咲は思わず口を開いた。

『ありがとう』

『………っ』

その瞬間、今まで笑顔だった大依の顔が驚きに目を見開いていた。

咲は何かしただろうか、と大依を見ると、突然握手していた手を払いのけられた。

そして
『……俺、用事あるから!』
と叫ぶと大依はさっさと教室から出ていってしまった。

咲は不思議に思いながら、黙ってそれを見守るしかなかった。


それからというもの、大依は最初のような笑顔を咲に向けることはなくなったが、何かあれば何故か大依はすぐに咲に絡んでくるようになった。

しかし咲はそのお陰で教室で1人になる事はなくなった。
1人になると必ず大依が不機嫌そうな顔でやってきて言うのだ。

『おい咲!図書室行くぞ!』

不機嫌そうな大依の顔。
しかし、その声はいつもどこか優しかった。

「(いちごちゃん、大依くんは……すごく優しいんだよ)」

咲は大依との去年1年間を思い出しながら、そう思った。


そしていつの間にか到着していた目的地を前に、一息つくとゆっくりと建物の扉を開いた。

明日にはまたいつものように大依が話しかけてくれる事を願って。






咲が目的地に到着したのと同時刻。

午後4時05分
大岐男子高等学校
in職員室

「ひーるいけ先生!ごめんって!オレチョー反省してるからさー!帰っていー?」

「お前それが反省してる態度か?!むしろ態度デカいぞ?!」

「だーかーら、ごめんてー!いろいろごめん!」

「………ドアの修理費はお前に請求するからな。」

「えぇー、マジそれだけは勘弁!オレチョー反省すっからそれだけは!オレなんでもするから!」

「そうか……ならまずその赤い頭を黒に染めてこい。態度で反省を示せ。」

「え?ヤダ。」

「……………お前、歯ぁくいしばれ?」

いぐさは数学教師、蛭池から怒りの鉄拳をくらっていた。

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あきゅろす。
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