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未知との
迷い子
「さぁ、入れ」

「失礼します。入ってもいいですか」

「いやだから入っていいって」

職員室の入り口でのんびりと頭を下げる咲を蛭池は呆れたような目で見つめた。

授業が終わって職員室に来てみれば、その前になにやら小さな子供がうずくまっていた。

何でこんな所に子供が、とは思ったが何やら息はあがり体中は雨のせいかずぶ濡れ。

こんな状態の子供を放っておける程、蛭池も薄情ではなかった。

蛭池は咲を職員室の中に入れると、自分の職員用机へと座らせた。

「ちょっと待ってな。話は後で聞くから。あ、あと俺の机の物には絶対触るなよ?触ったらお仕置きな」

自分の言葉に咲がコクリと頷くのを確認すると、蛭池はタオルを取りに、その場を後にした。

一人その場に残された咲は絶対触るなと言われた蛭池の机へと目をやる。

そこは物が山のように積み上げられ、確かに少しでも触れば全てが崩れ去ってしまいそうだ。

咲は自分のクラスの担任の机を思い出すと、今目の前にあるゴミの山に埋もれた机と比べてみた。

咲のクラスの担任の机はいつも綺麗に整頓されていた。

そして机の脇には自分達と撮った集合写真が可愛らしく飾られている。

まさに教師の机にふさわしい机だ。

なのに、今咲の目に映る机は何だ。

よく見れば机の端々や咲の座っている椅子には血のようなモノがこびり付いた跡さえ見える。

「…………」

咲は眺めていた机から目を離すとぼんやりと天井をあおいだ。

高校とは自分が思っていたより遥かに広大で、難解な場所のようだ。

全くもって高校という場所は咲にとっては全てが未知だった。

最初に高校生から受けた意味のわからない質問攻め。

ひたすら歩くのが早い桃田。

そして置いていかれた自分。

こんな事で本当に団地を見つける事などできるのだろうか。

そういえば自分は玉泉院でしか殆ど団地とは会った事がない。

高校で高校生をしている団地は、もしかしたら自分の知らない団地なのかもしれない。

最初に会った高校生達のように、自分には理解できない事を話すかもしれない。

桃田のように自分を置いて行ってしまうのかもしれない。

そう考えると咲は無性に怖くなった。

泣きたくなった。

無表情で。

咲は物凄く泣きたくなった。


咲が頭を俯かせてスカートを強く握り締めた時。

ポケットのケータイは鳴り始めた。

咲は急いでケータイを取り出すと、その真っ黒で飾り気の全くないケータイを見つめる。

あぁ、団地はケータイが無くて泣いているかもしれないのに(咲妄想)自分がこんな事でどうするのだ。

頑張らなければ

凄く頑張らなければ

「(……頑張ろう)」

咲は小さく心の中で決意を固めると、鳴り続けるケータイを 見つめ続けた。

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「ちっ。何で出ないんですかね、団地先輩は」

アクアスはケータイを睨みつけ足早に歩を進めながら舌打ちをした。

「だいたいあの人はケータイを持ってる意味はあるんですか……携帯しろよ」

アクアスがイライラしながら眉間をヒクつかせていると、何やら廊下がいつもより騒がしい。

その事もアクアスの苛つきに拍車をかけた。

「(あぁ…もう…イライラしますね)」

「団地さん居たかー?」

「いねぇーな」

「(この団地馬鹿共が……お前らは団地先輩のストーカーですか、全く)」

「つーか、あの座敷童は何で団地に会いたいんだ?」

「あー、聞くの忘れてたなー」

「あれじゃね?団地、大岐のリーダーだからお目通し願いに来たんじゃね?」

「マジかよ?お目通し願われるとかさすが団地ー」

「(………座敷童…)」

「で?その座敷童は今どこに居んだ?」

「あー、霊だし半透明になってんじゃね?霊能力で団地捜してんじゃね?」

「マジかー。すげーな座敷童」


「………………」


アクアスは周りの声に頭を抱えたくなる衝動を必死に抑えると、素早くケータイの通話ボタンに手をかけた。

「(………先輩…!マジで出て下さい……!!!)」

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