未知との 10.アイツと俺4 ------------ 「(うーん、今日もなんだかあんぽん君に会える気がするなぁ)」 蛭池は安本の浮かべるあの引きつったような顔を思い出すと、一人道を歩きながら吹き出した。 あの安本との再会を果たして以来、蛭池は予想通りやたらと外で安本と会うようになった。 まぁ、蛭池が居るのをわかっているせいか、安本は全く対大河との喧嘩の時には現れなかった。 だがしかし、それを補うには余り有るほどに、蛭池は安本と遭遇しっぱなしだった。 安本は、蛭池が行く先々にやたらと存在した。 しかも、安本はそんな時必ずと言っていいほど一人だった。 丁度ラブホから女と別れて一人で帰って居る道の先に。 ふらりとAVを借りる為立ち寄ったレンタルビデオ店の中に。 女をナンパしてふと顔を上げた先に。 それはもう、偶然では説明しようがないほどの頻度で蛭池は安本を見つけまくっていた。 そして安本を見つける度に、蛭池は他のことはほっといて安本の元へ走った。 そのせいか、途中リアルに安本から「お前俺を尾行してんだろ!?」とマジな顔で言われた事もあった。 その時の安本の顔が本当に蛭池のツボにはまり、その後しばらく笑いがとまらなかった。 その為、途中から安本の目は本気で据わっていた。 その顔がおかしくて蛭池はまた笑った。 安本に対するこの言いしれぬ愉快な感情だけは、いくら月日が流れようとも変わる事はないだろう。 そう蛭池が思い続けて2年。 その思いは見事的中し、3年になった今でも蛭池は“上木安本”に対して最初に抱いた想いが揺らぐことはなかった。 この男と居れば、俺はこれからきっと 最高に楽しくなれる。 その想い通り、蛭池はこの2年間最高に楽しい気分で過ごさせてもらった。 だから、 だから、蛭池は安本と喧嘩という奴をしてみたかった。 これまで安本とは出会いがしらの衝突(しかもお互い手はだしていない)以来一度も喧嘩をした事がなかった。 その為、蛭池の中では安本との喧嘩はどこか特別なものになりつつあった。 あの男とやれば今までにないくらい楽しくて最高な喧嘩ができそうな気がする。 これは予感ではなく 確信だ。 あぁ、考えただけでも体中ゾクゾクする。 千久後第1区。 この地域全土を落とす為とあらば、いくら安本でも必ず動くだろう。 こうなる事は最初からわかっていた。 安本がこの地区の頂点にまで上り詰めるのも、 そして最後まで大岐は絶対手を出してこない事も。 だから蛭池は大岐の頭として学校のトップに立つ事を決めた。 最高の舞台で、アイツと、上木安本と戦うために。 最高に愉快な気分になるために。 “今”を楽しむために。 「(さぁーて、あんぽん君、あんぽんくーん!どこかなー?)」 蛭池は笑いながら軽やかに歩を進めて行くと 「みーつけた」 あぁ、やっぱり俺の勘は 当たるな。 蛭池の前からは あの最高な男が歩いてきていた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |