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未知との
9.アイツと俺3
仲間の尊い犠牲と引き換えに蛭池が警官から逃げ切ってから3日。

蛭池は、安本に会う為に大河西への通学路で安本を待ち構えていた。

まぁ、待ち構えたと言っても「安本ならこんくらいの時間に来るんじゃね?」という蛭池の選んだ適当な時間帯に、大河西高校の付近を適当にフラフラしていただけなのだが。


基本的に蛭池の行動は全てフィーリングだ。

考えて動くとか、事前に下調べをするとか、そういった頭を使うような事はまどろっこしくて苦手なのである。

直感型、とでもいうのだろうか。

思い立ったら即行動。

会えたらラッキー。

会えなかったらその時はその時。

その程度の気持ちだった。


だから、今回も蛭池はその自分の心情に従い自分の気持ちの赴くままにフラフラと道を歩いていた。

そう、蛭池には何の意図も考えもなかった。

会えればいいな

会えたらいいな


ただそれだけを思って歩いていると


蛭池は安本と遭遇する事に成功した。


3日ぶりに見る安本に蛭池は自然と自分の顔がニヤつくのを抑えられなかった。
突然の蛭池の登場に安本はあからさまに心底嫌そうな表情を作る。

ぞんな安本に蛭池は更自分のテンションが上がるのを感じると、そのまま固まる安本に元気よく声をかけた。

『あーんぽん君!3日ぶりだなぁ』

『……………』

黙ったまま訳が分からないという表情をする安本に、蛭池はそのままのテンションで言葉を続ける。

『あ!あんぽん君ってーのは俺が編み出した君のニックネームな。上手く出来てんだろー?上木安本、やすもとを音読みしてあんぽん君。俺、これから君の事そう呼ぶから』

よろしく!そう言って蛭池が片腕を上げると今までただ茫然として此方を見ていた安本の表情が一気に険しくなった。

『……お前、一体何考えてやがる』

そう言って一心に蛭池を睨みつける安本を蛭池はやはりどこか面白そうに見つめた。

ジッと此方を睨みつける安本。

それはまるで懐かない野良猫を見ているようで、蛭池は安本になにやら愛嬌のようなものを感じた。

『(あー、マジで野良猫みてぇ)』

蛭池は身構える安本に笑みを濃くすると、そのまま一気に安本の目の前まで歩を進めた。

『お前じゃねーって!俺は蛭池安徳、大岐高校の1年だ。よろしくな!』

『……………』

そう言ってバシバシ安本の背中を叩いてやると、今まで睨みつけていた目がぱちぱちと瞬いた。
どうやら、蛭池の突然の行動に全く状況についていけてないようだ。

『いやー、昨日あんぽん君を見たときビビーっと来た俺の勘は当たってたみたいだな!』

『は?』

そんな混乱の真っただ中に居る安本に、蛭池は追い打ちをかけるように言葉をかけると、安本は案の定眉を潜め蛭池の顔を見上げた。


その瞬間、安本の表情に、ある一種の憧憬にも似たどこか悔しそうな色が表情に混じったのを蛭池は見逃さなかった。


あ、この顔、いいな。


蛭池は安本の小さな表情の変化になにやら自分が愉快な気持ちになるのを感じると安本の方に置いた自らの手に少しだけ力を込めた。

『そう、そう!あんぽん君の今みたいな顔!!俺その顔マジで気に入ったわー。もうツボなんだよねー、あんぽん君の困り顔とかって。そういうわけだから!』

そういうわけだから……なんだろう。

蛭池は自分で言っておきながらこの後自分がどうするつもりなのか分からなかった。


というか、何故自分はこんなにもこの男と関わろうとしているのだろう。


何故こんなにも楽しいのだろう。


そんな疑問が自分の中で一気に吹きあがって来た。

答えは

わからない。

しかし、ただ何となく、いつもの直感で、思った。

この男と居れば、俺はこれからきっと

最高に楽しくなれる。

そう思った瞬間


『これからよろしく。あんぽん君』


蛭池は安本の方に置いていた手を動かし、一気に安本の手を掴んだ。

もうその瞬間の安本の顔と言ったら……

最高に眉をしかめ、口角は引きつり、それはもう嫌悪を目にした集大成のような表情だった。

そのくせ此方を見る目には、やはり微かではあるが挑むような色が残っており、それがまた蛭池の中の謎の執着心に火をつけた。

『む……無理だ……!!お前、なんか無理!!』

『無理って、酷いなー。いやー、でもそのリアクションで、俺益々あんぽん君の事気に入ったよ。俺はあんぽん君とこれからよろしくするって決めたから、諦めて俺とよろしくしようじゃないか』

一歩一歩後ずさりをする安本を、蛭池はまるで自分が捕食者にでもなったような気分で後を追う。

そんな蛭池の行動に安本は後ずさりをする足を更に早くして逃れようと必死に蛭池から距離をとった。
『誰がお前なんかとよろしくするか!!?くそっ!近寄んな!お前無理!マジで無理!』

『俺は無理じゃないんだなー、これが。なんかさ、俺の勘では俺とあんぽん君と俺ってかなり気が合いそうな気がするんだよなー』

『合ってねーよ!既にこの会話が食い違ってんじゃねーか!マジで来んな!死ね!』

そう言うや否や、安本は一気に蛭池に背を向けて走り出した。

安本の突然の行動に一瞬蛭池も目を見開いたが、すぐにその表情はニヤニヤとした笑顔にもどった。

『くくっ、またなー!あんぽん君』

『またなんか二度とねぇよ!』

いや、またすぐに会えるさ。

蛭池は徐々に遠のいていく安本の背中を見送りながら静かに思った。

これも何故だか理由は分からないが、蛭池はこれからも安本にはずっと会えるような気がしてならなかった。

ただの予感。

ただの直感。

だが

『(俺の勘ってけっこう当たちゃうんだよなぁ……なぁ、)



あんぽん君』

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あきゅろす。
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