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未知との
4.俺とアイツ3
大河西高校
屋上


「!安本!お前大岐を落とさねぇってマジかよ?!」

「おい!何とか言えよ!?」

「なぁ!安本!」

「あぁぁぁ!っるせぇな!テメェらしつけーんだよ!」

安本は寝転がって居た体を勢いよく起こすと、周りで騒ぐ仲間をギロリと睨み付けた。

そんな安本に一瞬周りも怯んだ様子を見せたが、すぐにその顔は不満の色に彩られた。

「お前が大岐をやらねーってんなら、それなりの理由があんだろ?!」

「そーだぜ!俺らはそれを知りてぇんだよ!」

そう言って真剣な顔を向けてくる仲間達に安本は気まずそうに目を逸らした。

「理由があんだったら俺らだって納得できんだよ……なぁ、安本、教えてくれよ」

「別に……理由なんかねぇよ」

目を逸らしたまま気まずそうに呟く安本に、周りを囲んでいた仲間達は各々溜め息をついた。

理由さえ、

理由さえ言ってくれれば自分達は納得ができるのだ。

あらゆるものを兼ね備え自分達をここまで押し上げてくれた安本の言う事ならば、 納得し従う覚悟はあるのに。

なのに、今回のリーダーはどうしてか何も口を開かない。

それが不満でもあり、納得がいかない理由だ。

「っくそ!もういい!」

「安本、お前がその気なら本当に俺らだけで好きにやらせてもらうぞ」

「大岐なんて別にそんなに手こずる相手でもないしな」

「……………」

安本が周りから聞こえてくる声に無言のまま俯いていると、それに更に呆れ返った仲間達はため息をつき足早に屋上から出て行った。

「…………はぁ」

一人になった屋上で安本はまたゴロリと横になる。

結局こうなってしまった。

神八院の所でお茶を飲んで3日。
何もしないまま、安本が毎日を過ごしていると、今まで黙っていた仲間達が一気に不満を安本にぶつけた。


理由を言え


何度となく言われた言葉に安本は全て耳を塞いだ。

仲間達の言いたい事もわかる。

ここまできて大岐をやらないと言う安本の事だ。

何か理由があるのではないかと勘ぐるのは当然の流れであろう。

しかし、今回ばかりは安本としても仲間にそうやすやすと言えぬ理由があった。

大岐とは関わりたくない。

そう思い続けてきた安本。

関わりたくない

関わりたくない

しかし本当に関わりたくないのは

「(蛭池……アイツとだけはぜってー関わりたくねぇ!!)」


安本はアイツこと、大岐高校のトップ蛭池安徳の顔を思い出して一気に寝転がっていて体を起こした。

蛭池安徳
(ひるいけ あんとく)

それは安本がこの世で最も忌み嫌う男の名前であった。

いや、忌み嫌う、とはまた違うかもしれない。

言ってしまえば、安本はどうしようもなく蛭池の事が苦手であった。
それは、安本が蛭池に何かされたとかそういう理由があるわけではなく、ただ単に安本自身理解できないほどに、蛭池の事が苦手だった。

生理的に受け付けない。

まさにそんな感じだ。

安本は脳内に浮かんだ蛭池の姿にゾクリと背筋を震わせると、自分の脳内から蛭池を追い出すように乱暴に頭を振った。

「(アイツさえいなけりゃ………)」

そう何度本気で思った事か。

ここまで生理的に受け付けない相手になど本当に初めて会った。

安本は最初に蛭池と出会った時の事を思い出し眉を寄せると深くため息をついた。

「(マジで……何なんだよ……アイツ)」





---------------------

初めて蛭池と出会ったのは、安本が高校に入ったばかりの高1の5月だった。

理由は勿論喧嘩をするため。

喧嘩を始める直前。

安本が敵を前にした高揚感にその身を震わせていると、ある一人の男が安本の目に止まった。

その男こそ蛭池安徳、その人だった。

「(………でけぇな)」

安本が蛭池の姿にごくりと唾を飲み込む。

蛭池は、15歳にしては遥かに大きな体躯を持ち合わせており、堂々とした風格を漂わせていた。


まぁ、安本が蛭池を見たのは、蛭池に圧倒され目を奪われたからではなく……

安本はそこに居た人間の誰よりも背が低かった為、自分と正反対の体躯を持つ蛭池に対し、安本の視線は羨望にも似た苛立ちを含みつつ蛭池の方へと向けられただけなのだが。

蛭池はそんな安本の視線に気付くと、一瞬驚いたように目を見開いた。


しかし次の瞬間には蛭池は安本を見て、にやりと心底面白そうに笑った。

そんな蛭池の表情を見た瞬間、安本は今までにないゾワリとした感情が自分を襲ったのを感じた。

今思えばあの瞬間、安本は既に蛭池に拒絶反応を示していたのだ。

しかしその時の安本は敵を目の前に感じたその言いしれぬ感情に、自分はこの男に怯えを抱いているのではないかと思っていた。

だが、プライドの高い安本は自分が他人にそのような感情を覚えるなど考えたくもなかったし、ましてやその事を認めることなど、絶対に出来なかった。

ただ喧嘩が始まっても自然と殴る拳は蛭池には向かず、周りに居た他の奴らばかりに向けられた。

信じられなかった。

こんな風に自分が誰かを避けようとするなど。

誰よりも強くありたいと思っていた。

そんな自分が他人から逃げようとするなど。



丁度その時は、喧嘩に気づいた近隣住民からの警察への通報により決着はつかないまま幕を閉じた。

駆けつけてきた警察官から逃げようとした時、安本はちらりと蛭池を見た。

その瞬間、安本は小さく息をのんだ。

安本が蛭池を見ていたように、蛭池も安本をじっと見ていた。

視線が交わり合ったのはほんの数秒の出来事だったが、それを安本はとても長い時間のように感じた。
仲間に腕を引っ張られ我に返って走り出した時、安本は混乱した。

妙だ。

妙すぎる。

蛭池は確かに強かった。

しかし、蛭池の喧嘩を見る限り、安本が恐れを感じるような程強い相手ではなかった。

それに最後の蛭池と目が合った瞬間、安本が蛭池に感じた感情は恐怖とは全く違うものだった。

だとするとこの感情はなんだろうか。

走りながら安本は必死に考えたが、結局その日、安本がその感情に気づくことはなかった。

しかし、その3日後。
安本はその感情の答えをあっさりと知ることになる。

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