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未知との
2.俺
------現在
玉泉院




「ねぇー!テンチョー!テンチョーは若い頃どんな子だったのー?」

そう笑顔で尋ねてくる真っ赤な髪の少年に、俺は苦笑を浮かべた。

堀田いぐさ

こいつは今居るメンバー5人の中で一番の年長者の癖に、精神年齢は最も低い。
要は只の馬鹿だ。

「はぁ?お前、こないだその手の話はやっただろーが。話を掘り返すな」

「いーや、店長。こないだ聞いたのは店長のわかげのいたりだけで、店長がどんな奴だったかは聞いてないぜー!」

そう俺が仕事の片手間に話を流そうとすると、いぐさの隣から茶髪の、まさに今時の若者といった風情の少年が面白そうに口を挟んできた。

十研橋道本

こいつはやんちゃが過ぎるせいか、よく体中に傷を負って店にやってくる。
の癖に肝心な部分ではかなりのビビりという、度胸があるのかないのかわからない奴だ。


「どんな奴ってそりゃ……普通の奴だよ」

「普通の方は30余りもある地域を全て支配して、幅をきかせたりしないと思うんですが……どうでしょう、店長さん」

ニコニコと人の良さそうな笑みを浮かべ俺を見る金髪の少年に、俺は小さく溜め息をついた。

アクアス=クリーク

こいつは名前からもわかるように日本人ではないが、ハッキリ言ってそこら辺に居る若者より数倍日本人らしい。
そしてその笑顔の裏に隠れる腹黒さも、そこらに居る若者より数倍濃い。

「……お父さんの子供の頃……お父さんも子供だったの?」

そう言って無表情でこちらを見てくる、このメンバーの中では一番の年少者に俺は笑みを浮かべた。

「あぁ、あったさ。咲みたいにお父さんだって昔は小学生だったんだぞ?」

上木咲

俺の娘。
無表情で無口である為、他人とのコミュニケーションが苦手な不器用な子。
まぁ、純粋さと素直さだけは他の子より遥かに上だ。
これは決して親バカなどではない。

「じゃあ団地君も小学生だったの?」

「……まぁな」

そうぶっきらぼうに答えるこの目つきの悪い奴。

柏原団地

こいつは目つきは悪いは乱暴だは学校には行かねぇはという、学生として終わってる奴だ。
しかし、こんな不良と呼ばれる団地も何故だか、うちの娘、咲だけにはやたらと優しい。
咲も団地に一番懐いている。

「なぁなぁ店長!店長って高校ん時どんな奴だったんだよ!勿体ぶらずに教えろよー!」

「チョー知りたい!チョー知りたい!咲ちゃんも知りたいよね?お父さんの子供の頃の話」

ちっ。
話が逸れたと思ったらコイツら掘り返してきやがった。

話したくねぇっつってんのに。

俺がどうしたものかと思考を巡らせていると、丁度店の扉が開いた。

この時間帯に来る客と言えば、一人しかいない。

「神八院さん、いらっしゃいませ」

俺は待ってましたと言わんばかりにやって来た神八院さんに視線を移した。

神八院はぺこりと笑顔で会釈すると、いつも座る奥のテーブルへと腰掛けた。

俺は足早にそのテーブルに駆け寄る。

カウンターの方からは店長が逃げただの何だの叫んでいるが、俺は完璧に無視した。

話したくないもんは話したくないんだよ。
ったく。

「神八院さん、今日はどうなさいますか?」

俺が笑顔で尋ねると神八院さんさ笑顔で、いつものをお願いしますと頼んできた。

神八院さんの頼む“いつもの”とは、まぁ普通のコーヒーだ。

だから別に注目を取りにいく必要はなかった。

別のものを頼みたい時は神八院さんは自分からコッチを呼ぶし。

ただカウンターであーだこーだと騒ぐ連中から離れたかっただけだ。

俺がそんな思いで神八院さんから注文を受けてると、神八院さんは何かを察したかのように微笑んでメニューを掴んだ。

「今日は、このチーズケーキも頼んでみましょうかね。……あの黒い髪の青年が前食べているのがとても美味しそうでしたから」

神だ!

この人は神主じゃない。

この人自身が神なんだ!

これでこのままカウンターに戻らず厨房に隠れられる…!

俺は内心ガッツポーズをしながら笑顔でその場を離れようとすると、突然背後から小さな声で囁く声が聞こえた。

「……時間がたつのは本当に早い。あんなにやんちゃだった子がこんなに立派な大人になるのだから」

「……っ」

俺が慌てて振り向くと、神八院さんはいつもの笑顔を浮かべて「ねぇ」と呟いた。

あぁ、神八院さん。
その節は本当にお世話になりました。

俺は神八院さんに引きつった笑みを返すと、すぐさま厨房へと足を向けた。

未だにカウンターでは馬鹿共が何か騒いでいる。

しかし俺はそれを完璧に無視すると、すぐさま厨房へと駆け込んだ。

そして壁へと体をもたれかけ、ゆっくりと天井を仰いだ。
「(本当に…あんなに馬鹿だった俺がな………)」

俺は小さくため息をつくと、静かに目を閉じた。

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あきゅろす。
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