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未知との
7.俺様
大岐街



「おい、次はどっちだ?」

「………右」

「あ゛ぁ?何て言った?!」

「右」

「テメェ!ふざけんな!聞こえねぇっつってんだよ!もっと声張れ!バイクから叩き落とすぞ?!」

「右!」

「はぁぁぁー、お前がとれぇからまっすぐ来ちまったじゃねーか!馬鹿が!死ね!」

想はクソっと悪態をつくとバイクを車道の脇に止めた。

そして自分の後ろに乗せている咲に向かって振り返ると、咲の背中のリュックを掴んでバイクから落とした。

痛い

咲はコンクリートで体を打ちつけ、少しだけ眉を歪ませるが、声を上げる事はなかった。

そんな事をすれば想は更に怒るだろう。

咲は痛みに耐えながら、ゆっくり体を起こすと突然何かを上から落とされた。

チャリン、そう乾いた音が咲の耳に響く。

「おい、咲。お前その金でジュース買って来い。喉渇いた」

キングオブ俺様。
想はバイクに乗ったまま、さも当然のように地面に膝をつく咲に言い放った。

「……………」

咲が黙って自分の目の前に落とされた150円を見つめていると、上から更に理不尽な命令が降りかかってきた。

「30秒で買ってこれなかったら、シバく!」

「っ!」

「はい、いーち、にー」

30秒なんて無理に決まっている。
しかしカウントダウンを始めた想に、咲は慌ててお金を拾うと、辺りを見渡した。

少し行った所に自動販売機があるのを発見した咲は、急いでそちらに向かって走り出した。

何で自分はこんな事をしているのだろう。
つい30分程前まで自分は玉泉院で団地達とゆっくりした時間を過ごしていたのに。

どうして。

咲は走りながら片手に握り締められた1枚の紙切れに目をやった。

家の前で咲を見つけた想は、あいさつもそこそこに、この紙切れを咲へと突き出して言った。

『おい、俺をこの場所まで案内しろ』

久し振り会った想はやはりキングオブ俺様な想のままだった。

その高圧的な態度も。

人の事を全く省みない我が儘さも。

そして咲に暴力を振るう事も。

全く変わっていない。

想から突然差し出された紙切れに咲がどうしたものかと考えていると、その瞬間咲の頭には想の手によって掴まれていた。

しかももの凄い力で。

『さっさと受け取れ、このクズがっ!』

あぁ、悪魔。

咲は久し振りにそう思った。


想の言った“この場所”というのは、咲が今手に持ってる紙に書かれている星のついた部分の事であった。

何故想がそこへ行きたいのか、咲にはわからない。
想はその事について、何も言わなかった。
きっと聞いたら想は怒るだろう。
だから、咲は聞かなかった。

だが、疑問だけはずっと咲の中にくすぶっていた。


何で此処に行きたいのかな


咲は星の書かれた星の示すであろう場所を思い出しながら思った。

星の書かれた場所、

その星が示すのは


「(お兄ちゃんもかそうばで誰かを燃やすのかな)」


火葬場だった。

団地のバイクに乗せてもらって行ったあの場所に、今度は想と行く。
なんだか不思議な気分である。

「(団地君は今、何をしてるのかな)」

咲は足を必死に動かしながら、ぼんやりとそう思った。


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「おせーよ!このノロマ!30秒で買って来いって言っただろーが!」

そう言って想は帰って来た咲からペットボトルを奪い取ると、それで咲の頭を叩いた。

痛い

咲が殴られた頭をこっそりと撫でていると、想は咲の買って来たペットボトルを見てニヤリと笑った。

そして、そのペットボトルを突然咲の方へと差し出して言い放った。

「開けろ」

あぁ、身勝手。

「……………」

咲は想からペットボトル受け取ると蓋に手をかけた。

すると咲がペットボトルの蓋を開けた瞬間、シュワッという音と共に中からジュース、いやコーラが勢いよく吹き出した。

「………っ」

それはペットボトルを持っていた咲の手や服、更には顔まで濡らし、コーラはシュワシュワと炭酸を弾けさせた。

「っあははは!」

咲がチラリと笑い声のする方を見ると、そこには案の定、腹を抱えて笑いまくる想が居た。

「やっぱりなー!そうなると思ったんだよ!あー、マジウケる!」

「………………」

「あ、お前ちゃんとソレ拭けよ?べたべたしたまんま渡してきたらシバき倒すから」

あぁ、悪魔。

「……………」

しかし咲は黙ってリュックからハンカチを取り出すとペットボトルを綺麗に吹き上げた。

本当は服や顔に降りかかったコーラを先に拭いたかったが、想を待たせたら今度は何をされるかわかったものじゃない。

咲は素早くペットボトルを拭き上げるとすぐさま想に手渡した。

それを想は当たり前のように受け取ると一気にコーラに口をつける。

どうやら本当に喉が渇いていたようだ。

その隙に咲は素早く濡れた髪と服を拭う。

きっと飲んだら想はすぐ出発するだろう。

その前に準備を整えておかなければ。


咲が濡れた部分を拭き終わった瞬間、想は飲みかけのペットボトルを手に持った瞬間、ポツリと咲に声をかけた。

「なぁ、咲。安本は元気か?」

そう問うて来た想の雰囲気は今までの偉そうな態度と全然違い、まるで幼い子供に戻ったような表情をしていた。

「……元気だよ」

咲が頷くのを見ると想は目を細めて小さく笑った。

「だよな……安本だもんな!」

「……………」

「咲!お前はあの男が自分の父親である事に誇りを持て!お前はあの安本の娘なんだから強くないといけねーんだ!」

そうイキイキと話し出した想に咲はこんな所もまだ変わっていないのか、と少しだけ純粋に懐かしい気持ちになった。

想は安本を尊敬し、慕っていた。

想が大河西高校に通っているのも、安本が大河西の卒業生だったからだ。

絶対に自分は安本と同じ高校に行って、安本がやった事と同じ事をやってやる。

中学3年生だった想は、そう笑いながら言っていた。

「安本はな、スゲーんだよ!マジで!大河だけじゃねぇ、ここら一帯を安本は全て自分の下を置いてやがってたんだ!」

「……………」

キラキラと子供のように安本の事を話す想は本当に昔からちっとも変わっていない。

こうなった想はもう誰にも止められない。
想の気の済むまで喋らせるしかないのだ。
むしろこうなった想は暴力を振るってこないので、咲としては好都合なのである。

「だから俺も安本みたいになる。男は強くなくちゃいけねぇ。だから俺は絶対に一番強くなる……アイツより強い事を証明する。安本が出来なかった事を俺がやる。その為にはアイツを……アイツを絶対に」

「…………」

もう最後は咲に話しているのか、自分に言い聞かせているのかわからない程小さな声でブツブツと呟く想に、咲はチラリと想から渡された紙に目をやった。

一つだけ目立つように書かれた星マーク。

もしかすると、此処は今想の言葉に何度も出てきた“アイツ”に関係するのかもしれない。

何となくだが咲はそう思った。

「(“アイツ”はお兄ちゃんの……大切な人……)」

高校で夢中になったというのも、その“アイツ”なのかもしれない。


アイツ


アイツ


誰だかわからないが、こんなに想が夢中になっているのだ。

きっと凄い人に違いない。

咲がそんな事を考えていると、突然咲の頭に衝撃が走った。

「おい、テメー。シカトこいてんじゃねーぞ!」

咲が慌てて想を見ると、想は不機嫌そうな顔で咲を見ていた。

どうやらまた咲の頭はペットボトルで殴られたらしい。

「…ごめんなさい」

「ったく。おい、もう行くぞ。乗れ」

咲は想に促されるまままたバイクの後ろに跨った。

「次また小せぇ声でボソボソ言ったら踏み潰すからな」

「……………」

想の恐ろしい発言に咲は首を大きく縦に振った。


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あきゅろす。
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