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紅桜に成って似蔵さんを救うお話
理想と妄想
「にぞおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

そう叫びながら彼女は目を覚ました。

「…………さん。」

最後の声が尻すぼみに小さくなったのは、辺りの景色が今まで見たことがない場所であって、そこに少しの恐怖を覚えたからだ。

「何……ここ。」

その景色は前までと一変、真っ白な空間であった。
先程の少し先も見えない暗闇を反転させたように遠くの果てまで白。天井も地面も見分けがつかない。目に痛いほどの白。

それと同時に地震のように空間全体が緩やかに一定のリズムで揺れている。

「一体、何がどうなって……。」

座り込んで宛もなく辺りを呆然と眺めていると、

『岡田さんっ!!』

どこからか声が聞こえてくる。

『どこに行ってたんすか、』
『ちょっとね、』
『武市様が探していましたよ、私室に居るそうなんで会いに行ってください。』
『わかったよ……。』

まるで上から響くようなその声。
辺りを見ても当然人影など見えない。
その声は一人は知らない男性。
もう一人は間違うはずもない、cv青山の岡田似蔵である。

「はぁあ……どうなってんだこれ、」

訳の分からない状況のてんこ盛りに、元より優秀とは言い難い彼女の理解力は煙を噴いている。

彼女が頭を抱えているその間にも空間は動き、似蔵は武市の下へと向かっている。

「とりあえず、これ、夢じゃなさそうだな……」

唖然と上の方を眺めていると、空間の揺れがふっと止まる。

コンコン、っとノックのような音が聞こえた。

『どうぞ』

小さく聞こえたその声に聞き覚えがあった。

「武市、先輩じゃん。」

それから空間の動きが再開する。

『岡田さん、どこに行ってらしたので?』
『散歩。』
『こんな夜中に、ですか。』
『あぁ……それで、何のようだい?』

ドサッと一際空間が動いた。
それからまた揺れは止まる。

「もしかしてこの揺れ、似蔵さんの動きだったりす?今座った?」

彼女の考察を肯定するものはここに居ない。
しかし、彼女の中ではある程度の直感めいた確信を持っていた。

『紅桜を持ち出したようですね。』
『ふん、こいつの具合を確かめただけさね。』
『無断で持ち出すのはどうかと思いますが』
『……。』

「似蔵さんが武市ママに怒られてる。」

辺りの確認も現状の突破もしようとせず、彼女は仰向きに寝転んで降って聞こえる会話を聞いていた。

『勝手に外に出て、ソレが幕府の目に露見でもしたらどうするおつもりで?』
『……どうせ壊すんだ、構いやしないだろう。』
『物事には順序というものがあるのをご存じで?』
『……』
『貴方が考えているほど幕府というのは脆くないのですよ。』

その声は「貴方には分からないでしょうけど」等という侮蔑が込められていたように彼女の耳に入る。

『とにかく、貴方は私の言う通りにしていただきます。』
『……。』
『ご不満ですか?』
『いや、それがあの人の為になるんだろう』
『ふむ、理解しているとは意外です。』
『……。』

ピリピリとした殺気にも似た緊張感のようなものが辺りを包む。
彼女にまでも二人が睨み合う図が伝わる。

『……用件はそれだけかい?』
『えぇ、』
『そうかい、じゃ俺は行くよ』

グラリとまた大きく揺れる。
似蔵が立ち上がったのだろう。
扉が開く音がして一定の揺れが再開する。

その後、似蔵は一言も発することはなかった。

「なんだろ……今の会話すごく……」

鬼兵隊に夢を見ていた。
本当は似蔵も武市もまた子も万斉も、高杉でさえも心のどこかでは互いに想っていて、何よりも大事な仲間だと認め合っているのでは、そんな夢のような都合のいい空想を描いていた。
朝昼夜と一緒にご飯食べて、季節のイベント毎はきっと皆で遊んで笑って楽しく過ごすんじゃないかって。
頭のどこかでは、そうじゃないって分かってはいた、妄想と原作の分別はつけているつもりであった。
しかし、今の、似蔵に対して思いやりも感情も何も隠っていない声には、まるで似蔵を道具のように見る冷たさどころか鬱陶しいとでも言いたげで、何とも言えない虚しさをおぼえた。

「もしかしたらそう聞こえただけで、心の中では違かったり………」

そう口に出してはみたが、皆まで言うのは憚られた。

「それも、所詮、私の願望か……」

彼女の中は似蔵で回っている。似蔵が大好きなのだから当然と言えば当然だ。似蔵が周りから愛されていれば嬉しいし、冷遇されていれば怒りを感じる。だが、それを世界に求めるのは如何なものかと彼女自身自覚はある。

そもそも、彼女が知っている鬼兵隊というのは漫画の中のキャラクター、または二次創作として何重にも自己解釈とご都合主義フィルターがかかった整えられたモノばかりで。
目の前で存在する、鬼兵隊は、テロリストで犯罪者で人殺し。きっと自分とは思考も手段も経験も違う。

自分の理想と空想を目の前に求めるのは止した方が良い。
似蔵の揺れを感じながら深沈とそう考える。

「自分……どうしたらいいんだろ。」

ごちゃごちゃと纏まらない思考に呆然としてしまう。

似蔵さんに会えた。理屈は分からない。これが現実かもまだ定かじゃない。
ただ、我思う故に我あり。
これが、現実だと仮定するのであれば、やることは案外簡単なのではないか。

「とりあえず、欲望のまま動くか。」

やることは変わらない。現世だろうがトリップだろうが、全力でにぞーさんに尽くすのみ!!

そう彼女は勝手に意気込んだ。
変な所でポジティブな彼女。
むしろこの美味しい状況を堪能しない手はない。
粘着質な笑みを浮かべてほくそ笑む。

ぶるりと似蔵が身震いした。

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