紅桜に成って似蔵さんを救うお話
デジャビュ
長いこと走った。
後ろを振り向いてもあのピンク色は見えないし、さっきと同じように一寸先は闇に戻った。
「ここまで来りゃいいでしょ……」
膝に両手をあてて荒んだ息を整える。
「今のなんだよ……確かに出てこいっては言ったけど……」
すっかり血の気の引いた表情で後ろを気にする。
「はぁ、あんなの見たこと無いし……。」
折角巡りあった自分以外のナニかだったが、何も接触することなく去ってしまった。
まぁ、無理もない事であろう。
「結局何も進んでないよぉ。」
また暗闇に戻ってしまった。
結局何をすべきなのか、どうしたらいいのか分からないままだ。
「てか、そろそろ夢だとしたら目覚めてもいいと思うんだけどなぁ。」
夢オチ説をまだ諦めていないようだが、体感で言えば随分と確かに時間が経っている。
バクバクと煩い心臓も、喉につっかえる息苦しさも、それがリアルだと訴えてきているようで、そろそろ本格的に不安が胸に積もった。
夢オチ説を未だに考えているのも一種の現実逃避であろう。
「どーしよ……人間、暗闇に独りで居ると簡単に壊れるっていうしな……。」
人間、全ての感覚を遮断して孤独に放置されると八時間もあれば幻覚等を見出して精神が不安定になると彼女は以前ネットを介して知っていた。
もし、このままの状態がずっと続けば自分の体にも同じことが起きるのでは……。
焦りからか、何でもいいから自分以外の何かを見つけようと辺りを見回すがやっぱり真っ暗で何も見えない。
「さっきのも、もしかしたら幻覚かもしれんなぁ……。」
いっそ狂えば楽か、なんてそんな気も無いのに投げやりな思案をしていると、
__カチャリ
空間中に響いた金属音
「……ん?」
その音に反応した彼女が声をあげる前に、光が鯨波のごとくやって来てあっという間に彼女を呑み込んだ。
思考も世界も真っ白に染まった。
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