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紅桜に成って似蔵さんを救うお話
目覚め
ザンッ!!と身体に何かが激突する。
ハッキリとしない朧気な意識の中、そんな感覚を受けた。
痛みが来るわけでも特に何かが起こるわけでもない。ただ、ぼうっと意識を漂わせていると何回か同じような衝撃に意識が揺れて、

「ふむ、こんなもんかねぇ。」

(あ、れ……)

聞き覚えがあるような声に、彼女の意識は急速に浮上する。

ブンッと空を切るような音に合わせて身体が大きく下から上へ、上から下へと払われる。
びちゃっと液体が地面に叩きつけられる様な音がする。
ヘッドフォンでもしていたかのように今まで回りが靄がかって聞こえていたのに、それが聞こえたのを境に急に耳が冴えてくる。
しぃんと澄んだ空気、身体に触れる冷気。視界に広がる暗闇。それらが夜であることを彼女に伝えた。

(なんだ、これ……)

淡く紅色の光を反射させている、そんな地面に沈む黒い何か。
認識できずに意識を集中すると、

(ごみ袋?……布?)

目覚めたばかりで炬燵の中に潜ったように身体が火照っているせいか思考が上手く目の前の景色を処理してくれない。
夜、淡く紅に染まる地面と赤黒い色に塗り潰された地面。その赤黒い地面の中心には大きな布の塊

(あ、……違う、これ、)

やっと追い付いた思考に目の前の景色が急にハッキリしてくる。

(……人だ、)

地面にあるのは布の塊ではなく人であった。
うつ伏せの為顔は見えないが地面に放り出された四つの出っ張りから四肢が連想された。
それと同時に地面に広がっているのが血であるというのも理解できた。

(は、……え、殺人事件……?)

警察に連絡をしないといけない、そうポケットの携帯に手を伸ばす。

(あれ……)

手が、腕が動かない。
バカなと視界に腕を入れようとするが、どれだけ眼球を顔を動かそうとしても視界は男の死体を捉えたままピクリともしない。

(え、何これ……どうなってんの)

急いでどこでも良いから身体を動かそうとしてみるがまるで動かない。

(嘘……何これ……金縛り?)

ジワジワと混濁していた意識が恐怖に侵食されていく

(なんでなんでなんでなんでなんでなんで?)

あまりの恐怖に叫び出したくなったが、声は出ない。それどころか彼女は気づいてないが呼吸もしていないのだ。

錯乱する意識の中、ピクリっと身体のどこかが一瞬動いた。
それに酷く敏感に気づいた彼女はもう一度そこを動かそうとしてみる。
筋が痙攣するように跳ねる感覚は一体どこの部位のものか。指先でも爪先でもどこでもない。それでの確かに動く感覚はあるのだと、何度も動かしてみる。

「おや、まぁ……」

(……え)

すると、すぐ近くで男性の声が聞こえた。
とても聞き覚えのある声だ。

意識が声に奪われる。

「お前さんも悦んでるのかい……」

(この、声って……)

ぐるんっと視界が回転した。
暗がりに沈む死体も深い色をした闇夜もなく、
やけにギラギラとした紅色の光が視界を包む。
闇に慣れていたせいか全てが白く塗られて見えない。

「血が吸えて、嬉しいのかねぇ。」

その光の中から声は聞こえる。

(間違いないこの声……)

段々と光に目が慣れてきた。人の形をしたシルエットから光が引いていく。

「なぁ、紅桜よ。」

完全に姿を見る。

(…………………………………………………………………………は?)

緑の着物に焦げ茶の襟。

(待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って。)

首もとの赤いマフラーに紅色を反射する色つき眼鏡。

(いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや、え?え、え、え、え、え?え?ん?え?え、?いや、え?、ん?ん?いや、いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや、え?)

反転した視界いっぱいに映るのは一人の男。

(は?え?ん?え、え、え?ん?)

彼女はこの男を知っている。
それもよおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおくだ。

目の前にある屍体、広がる血の海、動かない身体、そして目の前に迫る、推し。

(似蔵さん、よね、?)

情報過多な状況に彼女の頭は混乱する。

(ん?なんで?どうして?なんで?え?え、え、え、えなんでえ?どうし、え?にぞーさ、え?似蔵さん、なんで?ん?え?え?待って、待って、ちょっと待って、え?にぞ、え?ちょっ、え?)

先程まで感じていた恐怖はどこへやら。

困惑していることに変わりはないが彼女の頭を占めるのは興奮と狂喜これだけだ。

(は?え、まじか、え?にぞ、似蔵さんが、目の前に、ぐふ、え?マジで?待って、え?え?)

彼女の混乱など気に留めない、というか知りもしな い似蔵は、そのまま刀を鞘に仕舞う。

感覚の端っこのほうに固いものがあてられそのまま滑っていく、その感覚が彼女の中心へとどんどん近づいてくる。
あ、きた。と思ったら下から視界が遮られていく。
完全に目の前が暗くなって直ぐ、カチンっと軽い音がして彼女の意識は一旦ブラックアウトする。

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あきゅろす。
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