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ちけさんからのおくりもの
- 虎徹の嫁入り -

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ある家の倉の中に、鏑木村正という米や豆や酒をたくさん持っていて、とても豊かに
暮らしているお金持ちのねずみのが一匹住んでおりました。

村正は優雅な独身貴族だったので、当然子供がいませんでした。このままずっと一人身でもいいかなと思っていたのですが、自分が死んだ後のこの倉のことを考えると、後継者が必要なのです。しかし、今更嫁を娶るのも面倒な村正は、手っ取り早く子供だけ欲しいのだがと神様にお願いしてみました。

「とりあえず、優秀な子供が欲しい」

すると、蓄えていた空豆の一粒が突然黄金色に光り出し、中からそれはそれは可愛い子ネズミが出てきました。

まさか本当に子供を授かるとは思っていなかった村正は、大層驚きましたが、その子に虎徹と名付け、大切に育てました。

虎徹はよく食べ、よく遊び、ずんずん大きくなっていきました。そして、思った以上に大きく、少々おバカにはなりましたが、大変素直で可愛いねずみに成長しました。

「うむ…。まあ優秀にはならなかったが、情に厚いいい子になってくれたから良しとしようか。ねずみの中では俺の虎徹が一番可愛いからな」

完全に親バカになってしまった村正がねずみの仲間を見わたしたところ、とても村正のお眼鏡にかなう虎徹のお婿さんにするようなねずみがいません。

「うちの虎徹は世界一なんだから、何でも世界一の婿をもらわないとな」

「なあ、俺オスなんだけど…。普通嫁をもらうのが普通じゃないの?」

「何を言っているんだ虎徹。金持ちの婿もらった方が楽でいいだろう。俺はお前が貧乏なところに嫁いで、セコセコ働かされ、苦労させられるような姿は見たくない」

「??そういうもんなの?」

「ああ、そういうもんだ」

「ふーん???」

疑問は残るようですが、オツムの良くない虎徹は村正の言葉でなんとなく納得したようでした。



そして2匹は、この世の中で誰が一番すごいのか考え始めました。

すると、高い高い空の上から声が聞こえてきました。

「そういうことなら私と結婚しよう!」

「えっ?!誰っ?」

「私は太陽のキースだ!」

「太陽…。どう思う?」

「そうだな…。世界中を明るく照らしている太陽なら、虎徹を幸せにしてくれるんじゃないか?」

2匹は考えましたが、とりあえず一目見てみようと思い、天へ上っていきました。

「虎徹くんっ!会いたかったよ!」

「え、はあ、どうも…」

「どうしたんだい?緊張してるのかな?」

「いや…、なんかやけに慣れ慣れしいから吃驚して…」

「そんなことはないさ!結婚したらもっと親密な間柄になるんだから!幸せにするよ!!」

満面の笑顔で暴走している太陽に、虎徹は大変困惑気味です。

その頃村正は、

「容姿はなかなかだ。それにこの世に太陽がなかったら米も育たないし……。太陽が一番虎徹にふさわしいのかもしれんな」

冷静に太陽キースの点数付けをしていました。

「では太陽さん、あなたが世の中で一番すごい方みたいです。どうかウチの虎徹を幸せにしてやって下さ…」

「あいや待たれよっ!!」

村正が太陽にお願いしていると、突然どこからともなく雲が現れ、太陽を隠していきます。

「ちょっ!ちょっと雲くん!!どいてくれたまえ!!」

「どかないでござる!悪いが太陽殿は邪魔にござるよ」

2匹が突然の事になんのリアクションも取れず呆然としていると、あっという間に太陽の姿は見えなくなり、声も聞こえなくなりました。

「話は聞いていたでござる。太陽殿より拙者の方が虎徹殿にふさわしい故、拙者と婚姻を結ぼうぞ!」

「え…、ていうか、どちら様?」

「拙者は雲のイワン。よろしくお願いするでござる」

「はあ、どうも…」

「雲さん。具体的にどのあたりが太陽より虎徹にふさわしいのか教えてもらえるか?」

「うむ。たとえば太陽が空でかんかん照っていても、拙者だとさっきみたいにすぐ隠してしまう事が出来るでござる」

「へー、なるほど。それはすごいな」

雲の言葉を聞き、2匹は妙に納得してしまいました。

「太陽より雲の方が大我にお似合いかもしれないな。よし、雲さん。あなたが一番虎徹にふさわしいようなので、虎徹の婿に…」

「ちょっとお待ちなさいっ!!」

村正が雲に向き合っていると、今度はいきなり突風が吹いてきました。

「あ〜れぇ〜……」

2匹が驚き固まっているうちに、雲はあっという間にはるか彼方に吹き飛ばされていってしまいました。


「あぶなかったわね!あんた達、もうちょっとで雲に騙されるところだったのよ!」

「…えっ?」

「私は風のネイサンよ。よろしくね!」

「ああ…、はい…」

「風さん、雲に騙されるってどういうことなんですか?」

「だって一番すごいのは雲じゃないのよ!現に今私に吹きとばされて飛んで行っちゃったじゃない?」

「確かにそうだな…。じゃあ一番すごいのは、太陽よりすごい雲を吹き飛ばせる風さんってことですか?」

「うーん、残念だけど、私が一番じゃないのよ」

「じゃあ誰が一番なんだ?」

「それは、壁のアントニオよvvアントンったら、私でも吹きとばすことができないんだからぁvv」

「そうか、壁か。それは盲点だったな」

2匹は風と別れ、壁の所へ出かけていきました。

「壁さん。あなたが一番虎徹にふさわしいものだと風さんに聞いたんですが。虎徹の婿になりませんか?」

「なにい!そういう事ならなんで一番に俺のところに来ねえんだ!俺以外に虎徹にふさわしいのなんかいねえぞ!安心して俺の嫁に……」

ガリガリガリガリガリガリ……

ガリガリガリガリガリガリ……

ガリガリガリガリガリガリ……

壁が張り切って言葉を発している途中で、どこからか石を削るような音が聞こえてきました。

「なんだ?なんの音だ?」

虎徹が驚いていると、壁の端下に穴が空き、そこからピョコッと大我達の倉の近くに住んでいるうさぎのバーナビーが顔を出しました。

「バニーじゃねえか!」

「僕はバニーじゃない!いや、うさぎだけど…、名前はバーナビーですっ!!……って、あれ?虎徹さん?どうしたんですか、こんなところで?」

「どうしたもこうしたも…。バニーこそ何してんだ?」

「僕は顎の力を鍛えてたんですよ。トレーニングにちょうどよさそうな壁を見つけたのでね」

唖然と見つめる2匹をよそに、バーナビーは、

「では、僕はトレーニングの続きがあるので」

と、またガリガリと壁を齧り始めました。

「なんか…壁が可哀想に見えるんだけど…」

「ああ…そうだな…」

思わず壁を憐れんでしまった村正と虎徹でした。

「でも考えたら、壁がいくら真面目な四角い顔でがんばってても、うさぎはあの強靭な歯を使って平気で壁を食い破って通り抜けて行けるんだよな。ってことは…」

「うさぎが一番すごいということになるのか?」

「……わかんねえ…」

揃って首を傾げた2匹でしたが、今日はもう日が暮れてきてカラスも鳴いてるので、そろそろ帰ろうかと言う話になり仲良く倉に帰りました。



その夜、倉で2匹がのんびりしていると、うさぎのバーナビーがすごい勢いで訪ねてきました。

「ちょっと虎徹さんっ!!どういうことですかっ!!」

「え?なにが?」

「なにが?じゃありませんよ!!あなたが婿を探してるっていう噂を聞いたんですけど、本当なんですか?!」

「え…、あの…、ほんと…だけど…」

バーナビーのあまりの剣幕に、盛大に戸惑っている虎徹は、たどたどしく答えました。

「何を考えているんですかっ!!あなたは僕のお嫁さんでしょう!!」

「…え…?………えぇぇぇっっ??!!ちょっ…、えっ、決定事項っ?!」

「あたりまえです!聞きましたよ。今日は太陽のところへ行ったら雲が出てきて、その雲は風に吹き飛ばされ、風が推薦したのは壁だったそうですね。……だからあんなところにいたんですね……」

「………」

「でもっ!僕だったらあんな壁なんて一瞬で瓦礫に出来ます!!と言う事は、僕が誰よりもあなたにふさわしいということでしょうっっ!!まあ、虎徹さんが僕のものだという事は、この世の創生以前から決まっていた事ですけどね!!」

この世の創生云々のどうでもいい話はともかくとして、村正と虎徹は真剣に考えてみました。

「なあ…、どう思う…?」

「バーナビー君の言うことも一理あると思うんだが……。虎徹、お前はどうしたいんだ?」

「俺?うーん……、俺はバニーの事嫌いじゃねえし、それにあいつは頭もいいだろ?だからまあ、別にバニーでもいいかなーって」

「そうか…。そう言えば、お前は意外と面食いだったよな…。俺は正直、彼にお前を託すのは不安が残るんだが、お前がそう言うなら、俺はもう何も言わん」

「ちょっと、何をコソコソと話してるんですか?そんなことより、さっさと結婚式の日取りなどを決めてしまいましょう!まったく、僕がちゃんと虎徹さんの傍にいないと、いつ誰に誘拐されるかわからないんですから」

「「………はあ…」」

勝手に話を進めるバーナビーを前に、もう溜息しか出てこない村正と虎徹なのでした。



こうして、バーナビーと虎徹はめでたく(?)結婚しました。

始めは波乱万丈になるかと思われた新婚生活でしたが、意外にも順調な毎日でした。なぜなら、バーナビー的にはイヤだったみたいですが、虎徹の心配をした村正が目を光らせていたからでしょう。

そして、頭と顔のいいバーナビーと可愛い虎徹、そしてしっかり者の村正の住む倉はますます栄えたということです。



‐おしまい‐



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