シンク・オブ・ダークネス
第5章〜BATTLE〜
 
俺は学校の校門を出て、退屈そうに歩いていた。

ポケットから1枚のカードを取り出す。

カードの残金を見て絶望する。

「残り………0円…………」

そんな感じで悲しい現状を口に出していると1通のメールが。

重低音を利用した、激しい曲の着メロ。

主にエレキギターとドラムを使った曲だ。

ボーカルの声はかなり低い感じ。

この曲を着メロとして使っているのは恐らく俺ぐらいだ。

そんな着メロにしたケータイをポケットから取りだす。

「お、メールか。誰だろ?」

ケータイを開き、中を見てみる。

すると、こんな事が書かれていた。

『街の中央公園に来い。あの時に恥をかかせた仕返しをしてやる。楽しみにしてやがれ』

これでは思いっきり迷惑メール。

俺は見た時、なんだこりゃと思った。

それと恥ずかしいメールだなぁとも思った。

そして馬鹿かコイツとも。

送り主はトール。

あの時の事をまだ引きずっていると思うと悲しくなってくる。

3日前の事をここまで。

普通の男なら忘れてるぞ。

「アイツも結構根に持つタイプなんだな〜」

普通ならそんなメールを無視するだろうが。

「俺も馬鹿だなぁ、警察にでもいいつければ済む事なのに」

俺はメールの文を打ち出す。

打ち出して約十二秒後。

『上等だ、クソやろう。あの時以上に恥かかせてやるからよ、覚悟しとけ』

という文が出来た。

この文を送信する。

メールを送った後、ケータイを閉じる。

そして呟く。

「これで、夕飯はなしでも大丈夫だぜ」

口の端を吊りあげ、小さく笑う。

その顔はまるで、何かを楽しみにしたかの様な顔だった。

さらに続けて。

「退屈させんなよ、トール」

 俺はそのまま街に向かう事にした。

「街なんざ久しぶりだぜ……それにしても」

街を見渡すと、その視界に映る人物はガラの悪い若者に、疲れきった顔をしたおっさん達に若いチャラチャラしたカップルぐらいだ。

酔いつぶれて地面に倒れている人もいる。

それらを見て何かを感じる。

「嫌〜な雰囲気になったな〜。あと先不安になるぜ〜」
俺が街を歩いているとある一人の酔いつぶれた中年男性が目にとまった。

下品にデカイ鼾をかいている。

ポケットから財布がはみ出している。

あの中からカードを取れば弁償代はどうにかなるかもしれない。

いや、それどこかこれからの生活費の分もあるかもしれない。 

俺はその爆睡したおっさんに近づく。

ハッ!

意識が戻った時の感覚に襲われる。

危ない危ない。

もう少しで俺は強盗になるところだった。

もう少しで学校で考えたことに似てる事を実行するところだった。

「え〜と、中央公園だったよな……」

周りを見渡してみる。

「ここ、どこだ?」

久しぶりに着たせいか、道に迷ってしまった。

街にはあまり来たことが無い。

四年前に友達に誘われたきり来ていない。

その時も友と一緒にふざけながら歩いていたため、その街の情景と言う物が一切頭に入っていなかったのだ。

ここに来るのは四年ぶりと言う事になる。

昔はよく来ていたのだが。

今となっては欲しい物もなく、友と行って遊ぶという事も無い。

街に行くということが無かった。

だが、今俺のいる場所は街。

しかも目的は買い物や遊びでは無く、野郎に会いに。

「まったく、あいつの誘いには疲れたぜ。またいつもの1パターンだろうな」

トールとはぶち当たることが多く。

つい4ヶ月ほど前には屋上で喧嘩してボコボコにしてやった。

その他もろもろでやりやったが、全て勝利。

トールではまったく相手にならなかった。

ほとんどが1分たらずでノックアウト。

トールは学校で常に飢えたハイエナと言われ恐れられていたが、俺から見たらカスその物であった。

この1000人に1人の天才には勝てなかったのだ。

だが、いつかは超えると言う一心で挑んでいる。

いつも、オレが倒した後に捨て台詞として、
「身の程を知れ、アンタでは俺の相手にもならない」
と言っているのに。
 
まぁ、結果は見えているのだが、誘いに乗ってやるのも悪くは無い。

「流石に飽きたな、今回で終わりにしてほしいぜ」

しばらく歩いているとサイドにある1枚の看板が目に入る。

その看板には公園の位置が詳しく書かれていた。

俺は公園の位置が分からず適当に歩いたため、道に迷ってしまった。

迷った結果、公園と離れた位置に来てしまった。

俺はその事を悔やむことしかできなかった。

「うわっ、遠すぎだろ!まったく、これだから街はわかりにくい」

周りを見渡し人の数を確認する。

案外少ない。

これなら少々暴れても大丈夫だろう。

「さぁてと、ボチボチ行きますか」

街をダッシュしていると、コンビニの前に見覚えのある顔が。

「あれ?公園で待ってんじゃなかったのか?」

トールは口にくわえた煙草を口元から離し返事をする。

「待ってたら眠くなってきてな、ここに立ち寄ってたんだよ。てめぇ待ち伏せとかだったら、いつも遅れてくるからなぁ〜。そんな態度だから付き合いとか続かないんだぜぇ〜」

「じゃ、待たせてすまなかったとでも言っておこうか?」

トールはクククと笑いながら不敵に笑っている。

その笑いを受けながら俺は聞く。

「なぜ、俺を呼んだ?あの時のことまだ悔やんでんのか?」

「ククク、違うな。今日こそ、決着をつけようと思ってな、呼び出したんだぜ」

俺はその笑い混じりの台詞の対し冷静に対処する。

「また言い訳して、実際はその事だろ」

「違うって言ってんだろ。てめぇに負けた分を力にしてケリを着けてやる」

「いつものように俺が勝ってしまうかもな、そしたらスッゲェー馬鹿にしてやっからよぅ」

「てめぇは感じねぇのか、いつもと違う嫌な予感ってやつを」

いつもと違う嫌な予感?なんだよいったい。

こいつ何企んでんだ?

俺はそんな感じで疑問を抱きながら言い返す。

「ハァ〜?嫌な予感だ?そんなもん、感じねぇぜ」

「そうか、じゃあ行くぞ」

「おぅ!来い」

「と、思わせて」

いきなりトールが勢いを止めたので俺はこけるような動作をする。
 
そんな動作も気に留めずトールが淡々と話を進める。

「今回はビッグゲストが用意してあんだよな〜」

「あぁ?ゲストだぁ?」

トールが再び笑いだし。

一気に吠える。

「今だ!かかれぇーーーーーーい!」

トールが吠えると同時に、後ろから金属バットで武装した2人の不良が一気に殴りかかる。

「なるほど。そういうのもありって訳か」

不良2人がバットを振り下ろすより早いスピードで2人の腹部を蹴りつける。

すると2人は腹部を押さえながら膝を着く。

「こんなもんか?ビッグゲストってぇのは。弱すぎだろ?もっと良いもん期待してたのによ、これでは失望だな」

「ならスマンな。だが、これがメインじゃねーんだよな〜、たっぷり味わえよ」

「ハァ?」

俺が周りを見渡すとそこには先ほど倒れた不良のような武装をした者が囲んでいた。

一部は釘バットを装備した者もいる。

数は5から10。

いや……そんなもんじゃない。

20はいるかもしれない。

これほどいればいくら喧嘩の強い奴でも真っ青だ。

トールは勝利を確信したのか余裕を持った口調で話す。

「ケイト。お前、何か1人で15人倒したとかいう伝説ほざいていたらしいな?なら、これならどうだ?今回はさっきやられた奴も入れて、23人だぁぁぁぁぁぁぁ!」

その台詞に答えるように挑発する。

「ケッ、上等じゃねーか、歯っ欠け野郎とハイエナ共が」

 さらに続けて、俺はトールの顔に指を示しながら言う。

「俺に勝てると思ったらそれは間違いだ。その勝負、ドンと来いってんだ!」

「今なら、土下座で許してやってもいいんだぜぇ」

「土下座だぁ?誰が歯の欠けたスパゲッティみたいな奴にするかよ」

トールの頭に血管が浮き出る。

そして不良集団の方を向き、告げる。

「もういい。殺っていいぞ、お前ら」

すると、不良集団は人をあざ笑うかのようにケラケラ笑い出す。

 その中の一人が言う。

「ホントか?トールの分は無くなるかもしんねぇぜ」

そんなトール達の会話に水をさすように入り込む。

するとトールはそいつに対し、
「殺れつってんだろ………ゴラァ」

その威圧をくらった不良は驚いてしまい、ハイとだけ返事をして後ずさりする。

それを見ながら、「おいおい、何の会話してるかわかんねぇけどよ、今回の喧嘩、賭け合ってみないか?」と軽いノリで聞いてみる。

俺の言った言葉に対し、先ほどトールと会話していた不良の1人が返す。

「賭けるだとぉ、何をだぁ?」

「それはあれだ。お前達が勝ったら、俺が高校にいる間パシリになってやる。だが、俺が勝ったらお前ら全員から1人頭3万ずつもらおうか」

「おいおい、それにしても小せぇ罰ゲームじゃねーか。もっと値段上げてもいいんだぜぇ」

「なら10万でどうだぁ?」

そう言うと、瞬時に不良の1人が叫びながら俺に襲いかかる。

「調子に乗るなぁぁぁーーー!」

跳びかかってきた不良の顔面を思いっきり蹴り上げる。

すると蹴り上げられた方はグハッと吐きながらを上げながら地面に叩きつけられる。

「楽しめそうだぜ、マジになってかかってきな」

そういうとトールとその仲間はニヤニヤと笑いながらバットを構えだした。

バットを構えた相手に対し挑発する。

「23人だったっけ。3人潰れたから後20人だな。この時点で900$手にしたってことだぜ。これ以上にない、お得な稼ぎ方だな」

ケイトを囲んだ集団の1人が取り乱し、金属バットを振り上げながら襲い来る。

そいつもヒュ〜と口笛を引きながら一瞬で蹴り飛ばす。

「これであと19人!」

トールは舌打ちをし、不良集団に告げるように言う。

「余裕ぶちかましてんじゃねーぞ、てめーらあの作戦で行くぞ」

集団に告げたようだが、俺が返事を冷静に返す。

「ふぅ〜ん。見せてみろよ。その作戦とやらを」

「その静けさもまた気にいらねぇ〜な〜」

「そりゃ失礼。雑魚にしてやれる態度が分からなくて〜」

「潰すぞ………一気に潰せ…」

そう言うと全員が体を屈め、何かの準備をする。

「こいつはどうだぁ?」

トールが俺の動きを読んでいる。

奴の目は俺の動きをとらえていた。

奴は俺が油断するのを待っている。

奴の視線からわかった。

トールの視線を受けながらもフッと口の端を吊り上げ笑ってみせる。

その瞬間。

俺が倒した2人に言ったように、今度は集団全員に指示を出す。

「潰せぇぇぇぇぇぇーーーーーい!!!」

すると一気に19人全員が雪崩れるように襲い来る。

そんな状態でありながらも俺は落ち着きを保ちながら微笑を浮かべる。

「ハッ、楽しくなりそうだぜ!」

余裕の表情を浮かべた俺に四方八方から武装集団が迫りくる。

この集団からの攻撃を逃れるのは万に1も無き可能性………。

だが、俺は違った。

武装集団の攻撃を華麗に避け、相手の攻撃から出来た隙へと反撃を繰り出す、この動作だけで次から次へと武装集団を倒れていく。

そんな光景を見てを見てトールは絶望する。

「こ…こいつ……化け物か?」

俺は余裕を持っている。

皆にそう思えるような表情を紙一重でバットの横振り避けながら微笑を浮かべてみせる。

ついでに残りの敵の数も数えていく。

その俺を見たトールが自分の無力さを実感し汗を流した。

そんなトールも目に入れず、敵ながらふっ飛ばしながら残りの相手の数を叫ぶ。

「残り4人!」

俺の余裕混じりの表情、残りの敵の数、俺のテクニック。

どこのどいつが見ても俺の勝ちは揺るがない。

それは相手もわかっているのか、完全にあきらめモードだ。

それから約十秒後。

俺の足もとには倒れた武装集団達が。

俺は23人全員を倒したのだ。

これは新記録!

1人で15人を倒した男という伝説にさらに上乗せさせ、23人伝説に塗り変えた。

トールは完全に戦意喪失のはずだが、俺に向かってまだ吠えるみたいだ。

「くっ、てめぇ……化け物が…まだだ、まだ終わっちゃいねぇー。俺が残ってる、俺と闘え!」

俺はため息をつき、トール達に背を向けながら捨て台詞を言う。

「弱すぎるんだよ。数で勝負しようって話でもな、落ちぶれた奴が集まった所で同じなんだよ。俺を倒したいなら、もう少し学んでから挑むんだな」

「このヤロー、ぶっ殺してやる!」

トールはナイフを取り出し俺に突進してくる。

俺は突進を華麗にかわしトールの腹部へと膝蹴りをする。

トールはナイフを落とし、倒れる。

「これでわかっただろ?俺の勝ちだ」

そう言ってもトールは倒れたまま返事を返す。

「ククク……確かにお前は強い。だが、俺はあんたを倒すまで、何度でも挑んでやる」

「ならば何度でも挑んでこい。懲りるまでな………」

再び背を向け、その場から離れる。

俺は街を抜けて歩いているとあることを思い出した。

「あ、やべっ、賭けの事すっかり忘れてた」

俺は歩きながら頭を抱え考える。

その後すぐに開き直り、「まぁ、いいか。誤ればどうにかなるよな」と一人言を言う。

俺はそのまま自分のマンションに戻る事にした。

家に入ると何か嫌気がさした。

それは寒気や気配では無かった。

白い何かが家中を飛び回っているようにも見える。

床からはカサカサとも聞こえる。

白い何かの正体はハネアリ&ハウスダスト。

カサカサの音の正体は長い触角の2本生えた5センチはありそうなゴキブリの群れ。

「ハハハ、客でも来てるのかな?物音立てて」

そう言いながらも、1歩踏みだす。

バリッ。

何かを踏んだ。

その音は甲殻系を踏んだ時の音。

靴の厚底を見るとそこには体液を惜しみなく吹き出し、砕けた2本の触覚を持った何かがベタッとブーツの厚底に張り付いていた。

たぶんその何かは1番嫌われていると思われるポピュラーな昆虫。

厚底の裏を確認する。

ブーツに付いてた物はもはや原形をとどめていなかった。

「うわっ、俺の靴が〜〜」

そう言いながらもゴキブリの死骸のついた厚底を床にグシャグシャと踏みにじる。

ゴキブリの大軍を見てもやはり腹は減るものだ。

何かないかと部屋中見渡すが何もあるはずはない。

だが、しばらく探している内にとっさにあるものを思い出す。

そういえば引き出しの中に非常用の缶詰隠していたような。

「やっぱ、便利なもんは残しとくべきだぜ」

引き出しまで近づく。

そして無心にガラッっと引き出しを開けると。

「ッ?!」

ガサガサッ。

嫌な音が聞こえた。

その音は部屋に入ってきた時、最初に聞いた音に似ていた。

だが引き出しの中には缶詰が見えた。

それは確かシーチキンのはず。

だが、俺の視界にはシーチキンの缶では無く、蠢く黒い生物が見えていた。

買い間違えたのか?

確かに俺は昔、後8年は持ちそうな缶詰を買ったはず。

黒い2本の触角の昆虫を買った覚えは無い。

なのに、何故だ?

引き出しを開けるとその中に入っているのは黒い害虫。

俺はとっさに引き出しを閉めた。

そして携帯をとりだしアルミスに電話する。

「ナイフから何か掴めたか」

「今調べたが、だめだ。指紋も付いてないし、何も掴めない」

「ということはその犯人は手袋か何かで指紋を着かないようにしていたのか」

「だが、壁に付けられた爪跡。ナイフの刃とサイズが合わないんだ」

「ということは何か別のもので」

「そうだな」

「でも、人を殺した後ってパニックになるんじゃなかった?」

「バーカ。紙で見ただろ、犯人が何回事件起こしたと思う」

「でも、事件の起きた場所はこの辺だけでは無い。場所は様々なんだぜ」

「何かの集団だと言う可能性もある」

「殺された奴から物の盗みとかなかったんだろ?なら何の目的で」

「人を殺してみたいとか思う連中とかだろ」

俺はアルミスの言葉を聞いていると頭の中で新しい話のネタが出てきた。

「そうか、あぁ、もう一つあるぞ」

俺は今日の昼にあったできごとについて話すことにした。

「お、何かあったのか?」

「今日の昼にリバロースと同じ死に方をした死体が見つかったんだ」

「本当か、何所で?」

「俺のマンションの隣」

そう答えるとアルミスが疑うような言い方で。

「まさか……お前がやったんじゃ」

「そんな事するか!」

俺は少し叱るように言って、さらに続ける。

「まぁ、それは置いといて、今回も意味の分からんメッセージがあったぞ」

「なんだった?」

「『地獄への道は長くはない、人は全て死に行くもの』だったぜ」

そう教えると、アルミスが呆れたような声でため息交じりに言う。

「まったく、そんなメッセージ書いといて何の意味あんだか、犯人の心理が読めない」

「落書きたぁ、犯人もガキっぽいなぁ」

「同感だな」

「どんな奴だろうが殺人は殺人、許されないことだよな」

「まったくだ、捕まったら死刑か無期懲役だろうな」

「ま、犯人の方も今頃、焦りに焦ってるだろうけどな」

「そうだろうなぁ、この連続殺人には興味深いところが多数ある。興味本心でこの件の調査を行っている人物も少なくはない。正直なところ俺は前から操作は行っていたんだ。それがまた、何一つ掴めない。雲を掴む感じでな」

「前から調査を行っていたって、ホントか?」

「あぁ、母の仇をうつためにな」

「アンタもいろいろ背負ってるってことか」

「ハハ、そういう事だな」

「だから熱心になれるわけか」

「まぁな。でも、第一の殺人、第二の殺人といい、犯人も身近で活動しているんだ、常に警戒しとけよ。殺された頃にはもう遅いからな」

アルミスが少し声を小さくさせてそう言う。

その言葉を聞き、少し寒気を感じるが返事を返す。

「わかった、お互い気をつけようぜ」

するとアルミスがさっきと喋り方を変え明るく言う。

「じゃーな、また明日学校で会おうや」

ブツッ

電話が切れたようだ。

さっきまで話していた時はあまり無かったが、電話を切った後は何か寒気のようなものをひどく感じている。

常に警戒しておけ、死んだ頃にはもう遅いという言葉が頭をよぎる。

腕には鳥肌さえも出ている。

これが恐怖だと言うのか?

常に狙われているかもしれないという恐怖。

いつか殺されるかもしれないという恐怖。

それらが悪寒となって自分の体を冷やす。

「あぁ、寒い!風呂にも入って温めるか」

俺は風呂に入って悪寒を取り除こうとしたのだがやっぱりそう簡単に取れるものでは無い。

4日ぶりに風呂に入ったのに全然気持ち良くない。

逆に気持ち悪いくらいだ。

風呂の中で呟く。

「犯人は常に身近にいる……か」

頭の中でとあるシルエットが浮かび上がる。

両腕に三本ずつナイフを着けた大きな何者かのシルエットが。

「まさか…あの化け物……」

だが、不意にある事を思い出す。

現場には文字が書かれていたんだ。

化け物に文字を書く知能があるはずはない。

そうだ、あの「何か」にそんな人みたいな事が出来るはずが無い。

あの……人を殺戮するだけの化け物に。

あの化け物がいるとしたら被害はこの程度では無いはずだ。

いるとすれば夜な夜な死者が出続けるはず。 

そうだとしても死者の数は10人を超している。

あの化け物がいるなら妥当の数か。

考えていると頭に激しい頭痛が。

前に起きた悪夢のような出来事を思い出したからか。

湯が付いて濡れた頭を掴むようにして抱える。

風呂場の窓から外を眺める。

その風景を見て思う。

こんな世代にそんなオカルトなんかあるはず無いと。

いろんなことを考えている内にのぼせてしまった。

すぐに風呂からあがりタオルで頭を掻くように拭く。

髪がバサバサになったまま布団に寝転び呟く。

「結局弁償代たまらなかったなー」

そして埃っぽい天井を見た後、壊したバイオリンの所持者の顔を思い出す。

「あの顔……あいつに似てるような」
 
いつもの変わらぬ風景。

電灯のおかげで明るさはあるが、なにかと薄暗さがある。

それが街の重苦しさをより一層強くさせる。

街を歩いているのはいつもと変わらぬような奴らだ。

その中で特に目立っている集団がいた。

その集団はチャラついた服を身にまとった青年を取り囲み次々と殴りや蹴りを入れている。

つい1時間ほど前に敗北と言う名の屈辱を味わったトールと武装集団だ。

その数はトールも入れ、その数24人。

トールが口を開き、睨みも入れながらイライラした感じの口調で言う。

「俺ら今、かなりイラついてんだよ、そこであんたみたいなチャラついた奴見ると、つい殴りたくなるんだよ。さぁ〜て、一通り痛ぶった所だし、そろそろ金出す気なっただろ?」

するとチャラついた青年は雰囲気に合わず正直に言う。

「今……金持ってないんすよ、だから勘弁してください」

「おいおい、おいおい。まさかここまでやられて何も無しって事、無いよな〜?」

助かると思った青年はトールの反応に疑問に思うばかりだ。

「おい、お前らこいつを拘束せろ、こいつにヤキいれてやらぁ」

武装集団の2人がニヤニヤしながら青年の両肩を腕で拘束し、身動きの取れぬ状態にする。

そんな拘束された青年にトールはザッザッと近づく。

青年の目の前に来た所でトールは足をサッカーのシュートを決める時のように足を構える。

そして思いっきり蹴りつける。

その蹴りの異常なほどの威力で青年は力無く壁へと叩きつけられる。

それだけでは無くサイドにもいた2人にも被害はあったようだ。

青年は倒れたまま骨でも折れたのか身動きが取れずに咳をしている。

それを見た武装集団の1人が感心して言う。

「い…今のが……トールのキックかよ……噂に聞いてたけど…すげぇ」

そんな事を聞いたのやら聞いてないのやらトールが武装集団達に指令を出す。

「お前ら、こいつの金目になるもん、片っ端から奪っとけ、先に言っとくがゴミはいらねぇ〜からな」

すると武装集団が青年を取り囲み所持物を次々と奪っていく。

トールが吸っていた煙草を離し、フゥーと煙を吐く。

そして顔に付いた傷を触りながら顔を余計強張らせ。

「あの時の恨みはいずれ2倍にして返してやる」

その時がちょうど青年から持ち物が取られているところだ。

それも気に留めずトールは続ける。

「それまで待っていろよ、ケイト、その時は地獄を見せてやる」

そう言っていると無数のアクセサリーを持ちながら武装集団のメガネを掛けた一人の男がトールに言う。

「ほら見てください、こいつ金無いとか言っておきながらこんなん持ってましたよ」

そう言われると、トールはアクセサリーを持った男の頭を片手で掴む。

「トールさん、な……なにを?」

そして力を入れる。

メキメキ。

そんな音がした。

その音はまさに骨が折られた時の音。

ついでに眼鏡も割れレンズの破片が散る。

トールが手を離すと男は倒れ込み、口から泡をふきながら白目をむく。

武装集団の間から緊迫感らしきもの感じられた。

その武装集団は絶対的恐怖を目にしたように驚愕の表情をあらわにしていた。

そんな中でトールは顔の影を余計強くさせ、また煙草に口を着ける。

「ケッ、くだらねぇーもんばっか持ってきやがって。よく見たら全部安もんじゃねーか。ゴミはいらねぇ〜て言ったのによぅ、この雑魚がぁ」

武装集団は驚愕の表情を浮かべながらトールの顔を凝視する。

「何見てやがんだ!?てめぇ〜ら」

トールがそう冷やかにそして叱るように言うと武装集団は息を飲み沈黙した。

そんな中トールは煙草の煙を吐き言う。

「まったく、なにこの程度でビクッてんだか」

トールは煙草をポイ捨てし、新しいのを吸おうとするが箱の中に無い。

「あれ、きれちまった。だれかよこせ」

そうトールが言うと武装集団のほとんどが「俺の煙草を吸ってくれ」と言わんばかりにトールに押しつける。

どうやらここで恩を売っておきたいという気持ちかららしい。

そんな気持ちも知っているやら知らないやら、そのなかの1人の煙草をトールは取る。

そしてライターの火をつけ吸う。

煙草はイライラしている時に吸えば気が楽になるらしいが、1時間ほど前にあったあの出来事についてはイライラが残るままだ。

(クソあの野郎、思いだすだけでイラつくぜ、次あった時は……)

そう思いながらトールは地面に煙草を捨てる。

そして、心の中で言い放つ。

(確実にぶっ殺す!)

 トールは愛用の皮靴でグシャグシャと踏み潰す。


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