夢。 新しい朝へ、 鳥の声がなく、いつもの朝。 明かりなどひとつもない彼女の部屋。机とベッドだけ置かれた、粗末な部屋。 絨毯などあるはずがない。ベッドを降りれば足の裏にはひんやりとしたつめたい感覚。 昨日母から渡された制服を、とってみる。 ベージュのカーディガンに、紺色のブレザー。 その紋章は、「婆娑羅」と書かれていて。 穂香は胸の奥がツン、と痛む感覚を覚えた。気づけば制服をもっていない手は自分の首筋で。 目の前にある鏡をふとみてみれば、自分の触っている首筋から赤い血が滴る。 ―――気づかぬうちにつめを食い込ませていたらしい。 血が滴るその位置は、穂香の人生を狂わせ、乱してきた刻印の位置。 赤い、花の印。見ているだけで恐怖が蘇ってきて、今まで衣類で隠してきた。 あいにく髪は短いから。―――――女たちのおかげで。 ごそごそと制服に着替えた穂香は、自分の部屋を出て、1階へと降り立った。 聞こえてくるのは、酒に酔いつぶれた母の狂った笑い声、それだけ。 「・・・・・・お母さん、」 透き通る声が、酒に酔いつぶれて狂乱する女へと掛かる。 その声に気づいたらしい女は、テーブルのほうへと指をさす。 そこには、ひびが入った皿のうえに載せられた食パンがあった。 「ありがとう、お母さん」 穂香はそのパンを手に取り、ぱくりと咥えた。 何も味がしない、ただこの腹を満たすためだけのもの。 パンを食べ終えた彼女は、玄関をでて新しい学校へと向かっていった。 ―――この新しい学校が、彼女を変えるきっかけになるというのは、まだあとの話。 『どうか、私に幸せを。』 [*前へ][次へ#] [戻る] |