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腐った過去の遺物


久々の公休日。といっても公休日が久々なのではなく、絳攸が公休日に休める事が久々なのだ。なにせ常に吏部は書簡でいっぱいなのである(ついでに吏部官、吏部官の呻き声喚き声、李侍郎の怒鳴り声、物を破壊する音等でいっぱい)。休める訳がない。そんな中何故か“奇跡”が起きて、休める事となった。勿論、絳攸は黎深がいきなり仕事をし始めた理由がわからなかったけど。

なのでせっかくの休暇、ゆっくり寝てから読みたかった書物を読んで過ごそうと計画をたてた。そう、たてたのだ。なのに計画にないことが起こってる。


―――此処は何処だ。


(厠にたっただけなのに…!何故部屋が移動するんだッッ!!)

今頃、上手く計画通りいってれば書物を一冊は読み終えていただろう。

(くそっ、部屋め俺の予定を邪魔する気か!何の恨みがあって!王宮じゃあるまいし…!)

絶賛迷子中なのをなかなか認めない絳攸であった。




「つ、かれた……」

かなり歩き回ったものの、全く部屋が見つかる兆候がない。横を見れば同じような扉ばっかり。壁の染みや柱の傷を頼りに部屋を探していた絳攸だったが、疲れのせいか、段々全て同じような物に見えてきていた。

「もういい加減にしてくれ…」

家人に尋ねようにも、こんな時に限って誰も見当たらない。職務怠慢なんじゃないのか?と有らぬ事を八つ当たり気味に思い始めた絳攸。
実は家人はそこら辺を闊歩していたのだが、どういう訳か絳攸と遭遇しなかったのだ。なんと間が悪い。
流石に体力に限界がきていた。少し休もうと壁に手をかけた次の瞬間―――


くるっ


「へっ?」


どてっ


絳攸はこけた。というより倒れた。いきなり壁が回転したのだ。忍者屋敷か!と突っ込みたくなる。

「なんだこれ…」

倒れた痛みをそっちのけに好奇心で部屋の中に入る。中は真っ暗だったが、すぐ側に燭台があった為、直ぐに点火した。

「ん…?」

まず目に入ってきたのは綺麗に飾られている姿絵。将来を嘱望されるくらいとても美しい少女が描かれている…って

「これ俺!?なんでこんなところに、というか何時!?」

これは自分がまだ少年だった頃、養い親の命令で嫌々出場した王都女装大会少年部門で優勝した時の忌ま忌ましい姿だ。絵師に描かせた覚えはないのに何故こんなものが!

「って」

横を更にみると、その時着ていた衣もあるし。そのまた横には自分が初めて書いた下手くそな手習いの紙が。そのまた横には、またまた横には、またまたまた横には、という具合に絳攸の幼い頃の思い出の品々が埃を被らない硝子の箱に入った綺麗な状態で保管されていた。

「れ、黎深様…百合さん………」

腐った過去の遺物を見つけた手前、絳攸はただ呆然としていた。そしてその場に縫い付けられた様にぴくりとも動かない体、足。また、その体には奮えが見受けられた。それは、怒りにうち震えているのか、はたまた自分に近づいてくる存在を対する恐怖にうち震えるているのか。




ほら、“影”の報告を受けた“あの人”が此処に姿を表すまで、あと三秒―――






End



嫌な過去は腐った物にしか他なりませんよねー。



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あきゅろす。
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