溶けないアメ 「うぇっ…」 唐突に絳攸は奇声をあげた。しかも、しかめっつらをしてそのまま固まってしまっている。 「どうしたの?」 「このアメ甘い…!」 身動きしたら体中に毒が回ってしまうから動けない、そんな感じがする固まり方だ。 そのイメージをそのまま話すと絳攸は同意をしめした。しかめっつらのまま。 「確かにこの甘さは毒みたいだ…」 「そんなに甘いの?」 「俺を見ればわかるだろ…!」 彼の白く細い指に摘まれているアメの袋に目をやった。とっても赤が毒々しい、合成着色料使ってます!と強調しているような色合いのアメ。 絳攸がこんなアメを食べるのは珍しい。というか絳攸自体がアメを食べるのは珍しい(喉飴を除いて)。そもそも彼はそんなに甘党ではなかった筈だ。まぁ自分よりかは甘党であるが。 「これ君が買ったの?」 「いいや、秀麗に貰った…!うぇっ」 成る程。彼の敬愛してやまない養い親が溺愛している義従妹からなら納得がいく。 …だったら無理をせずに養い親に差し上げれば良かったのに。きっと喜んで蛙の様に飛び付いて即口の中に放り込んで姪からのアメの旨さ(甘さ)に身もだえするか、そのまま取っておいてアメが溶けるまでほお擦りするか、賞味期限が過ぎても永久に家宝として保存し続けるか、どれかしてくれたと思う。多分絳攸の持論は「秀麗からの貰い物を拒否すれば後からなにを言われるかわかったもんじゃない」だろう。 「…ねぇ、今アメの大きさはどのくらい?」 「や、やっと半分くらい…」 「なら大丈夫そうだね」 「な、なにが」 絳攸は最後まで言葉を発せなかった。理由は単純に、楸瑛に自身の唇を塞がれたからだ。しかも楸瑛の唇で。 先程まで喋っていたのと楸瑛の突然の行動に驚いて唇は半開きのまま。 安々と楸瑛は舌を侵入させると絳攸の口内を一周した。そしてゆっくりと離れる。 「はぁ、はぁ…な、何なんだ貴様は!」 耳まで真っ赤にして怒鳴る絳攸を変態親父思考で可愛いなぁと思いながら、絳攸の口内から奪ったアメをカランコロンと音をたてながら舐めた。 「う゛…!」 その瞬間舌に走った痺れ。なんだこの甘さ…! 確かに毒と言っても過言ではない。というか毒と言っていいだろう。 「…秀麗殿から貰ったっていったよね…?」 「…ああ」 「……女性ってよくこんな甘い物食べれるよね…。尊敬に値するよ…」 「……ああ」 「……もう半年くらいは甘い物を見ると吐き気がすると思う。…う゛」 「……俺もだ」 楸瑛はなかなか溶けないアメに苦悶の表情を浮かべた。 End 当サイトの絳攸は時と場合によって甘党であるかないかが別れます。理由は私が気まぐれな奴だからです← [次へ#] |