捧げ物
1
季節は冬の真っ只中。今年は例年より寒い。こんなに寒い外に出るより温かい家の中でぬくぬくしている方がいい!という人間らしい惰性的理由からか、外には人気があまりない。その例に漏れず、紅家貴陽別邸書庫で李絳攸は書物を読み耽っていた(そもそもこの少年は春でも夏でも秋でも冬でも兎に角季節に関係なく常に書庫に篭っているのだから、別に惰性的理由で家にいるわけではない)。書庫に住んでいるようなものである絳攸に心優しき家人達は火鉢を有りったけ書庫に集め、温かいお茶や茶菓子等を用意してくれる、そんな快適な環境の中に身を置く絳攸を探しに来た百合は彼の現在進行形で読んでいる書物に目を留めた。そして背後から問い掛けた。
「絳攸、何を読んでるの?」
「うわっ!」
かなり書物に集中していた為絳攸は百合の気配など読める筈もなく、百合に驚かされる羽目になった。
「お、驚かさないで下さい!」
「ごめんごめん、私に気付いてないと思わなかったわ。で、その本にはどんな事が書いてあるの?」
再び百合はその書物に目を向ける。開かれていた項には真っ赤な服を着た白髭の太ったおじいさんが描かれていた。
「これですか?何でも、どこか遠い国の冬には“くりすます”という日があって夜になると“さんたくろーす”という名前のおじいさんがやってきて良い子にこっそり贈り物をしてくれるのだそうです!」
「へぇ〜、そんな人がいるの。もし彩雲国に“さんたくろーす”がいたら、絳攸なら確実に貰えるわね」
「本当ですか?」
【“さんたくろーす”は良い子に贈り物をしてくれる】。だから百合が「絳攸なら確実に貰える」と言ってくれているということは自分はちゃんと良い子でいられているということだ。基本百合は嘘をつかない(…黎深程正直ではないが)。
だから、嬉しいです、と頬を染めてにっこりと絳攸は笑った。そんな絳攸に百合も微笑み掛ける。
ほのぼのとした雰囲気の中、二人から距離はそう遠くもない本棚の陰から人の気配がしたのだが、それに二人は勿論気がつかなかったのであった。
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