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捧げ物


夏の陽射しは矢の如く、我が身に降り注ぐ―――





「……………」

「絳攸、大丈夫かい?」

「…………………」

楸瑛は何度も絳攸に話し掛けるが、相手は静かに目を閉じていて何にも反応を示さない。


ただ今絳攸は絶賛夏バテ中なのであった。


久々の休日に絳攸の部屋に訪れたら既にこの状態。普段から超が付くくらい、不健康・不摂生な生活をしているせいで、毎年夏になると必ず絳攸が夏バテになってしまうのは必然であった。
一応室内はクーラーで涼しくしてあるが、何か食べてくれないと夏バテは解消されない。

「何か食べたい物はある?」

「………………」

「…ないみたいだね」

本当にしんどいらしく、ぴくりとも動かず呻き声もあげてはくれない。

「アイスとか…。でも夏バテに冷たい物は禁物なんだよね…」

ふぅ、と溜め息をついて絳攸を見遣る。
早くどうにかしてやりたい。とても痛ましい。

「仕方がない、無理にでも何か口にしてもらいますか…」

確か温かいお茶とかが良かった筈。先ずはお茶を飲んで貰おう。
キッチンで温かいお茶を作って絳攸の元へ持っていき、抱き起こした。そして絳攸の口元にカップをつける。

「ほら、これを飲んで」

「…………ん」

うっすらと目を開けた絳攸は楸瑛に飲ませて貰う形でゆっくりとお茶を飲み干していった。
全て飲み干した後またベットに横たわらせ、毛布をかけ直す。

「よく出来ました」

そう言って楸瑛は柔らかい銀髪を撫でた。
多少は楽になったのか先程より微かに顔色が良くなっていた。

けどやはり青白い。透き通りそうなくらいに。
今にも儚く消えてしまいそうだ。
そのことに多少の不安を覚える楸瑛は絳攸の頬をとても精巧な硝子細工を扱うような手つきで触れた。

「……私の傍から消えないで…」

聞かせるつもりはなかったのだが聞こえていたらしい。絳攸は微かに憤然とした表情を浮かべた。

「…何考えてる。たかが夏バテで……」

自分の頬に触れていた楸瑛の手を手に取るとそのまま握り締める。

「…お前はつまらない心配をしないで、ただ俺の傍に居ればいい」

それを聞いた楸瑛はニヤリと笑うと絳攸をからかった。

「それは私への愛の告白、ってことでいいのかい?」

「ばっ…!この常春めがッ!」

紅く染まった顔を見せない様に急いで毛布を頭から被った。

「随分元気になったみたいでよかった。次はお茶だけではなくて食べ物を口にしないとね」

上機嫌にキッチンへ行く楸瑛を絳攸は毛布を少し下げて見ていた。

(不安にさせてしまったみたいだな…)

あんなに不安がる楸瑛は
あんまり見たことがない。余程悪いように見えたのだろうか。
そのことに絳攸はちょっと反省しつつ、今度からはもう少し体調管理をしっかりしようと決心したのだった。




けど、貴方がいれば堪えられるから。
だからずっと私の傍に、居て下さい―――





End



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