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捧げ物




さらり、さらり、と粉雪が舞い散る中―――


絳攸は回廊を歩いていた。実は先程から迷っている。王の執務室はまたどこかへ引っ越してしまったらしい。
苛々しながら立ち止まり目印を探す。

どこにも、ない。

はぁ、と溜め息をつき外に目を向けた。
雪が降っている。無意識に足が動いて―――
気がついたら、外に出ていた。

ゆっくり足を動かして、池の側までやってきた。
何故池の側にやってきたかは自分でもわからない。ただ、心の赴くままに来てみただけ。

池は凍っていた。その上に粉雪がゆっくり舞い降りる。
しゃがみ込んで、寒さでいつもより更に白くなった手で雪を氷の表面から振り払った。

不思議なくらい綺麗な氷の表面には自分の顔が写し出されていた。


あの頃より成長した、今の自分。


それをただ単に眺める。
不意に、昔の、“コウ”の頃を思い出した。


あの頃は、独りで。
寂しくて、寂しくて。
この粉雪みたいに、冷たいモノばかりで、自分の世界は構成されていた。
暖かなモノも、優しさも、なにもない。


けど、今は違う。
今の自分は寂しくなんかない。
独りではない。
黎深様と出会って、自分は独りではなくなった。
百合さん、邵可様、秀麗、主上、静蘭、楊修、
そして―――

「こんなところで何をしているの?」

風邪引くよ?と、まるでタイミングをはかって出てきた男に絳攸は驚いた。そう、そして楸瑛。

彼らと出会って、何時しか自分を取り巻く世界はどんどん変わっていって、優しくて、暖かいモノで満ち溢れて。
例え、また世界が冷たいモノとなっていっても彼らの存在が自分を掬い上げてくれる。

「どうしたの?なにかあった?」

心配そうに顔を覗き込んでくる常春に絳攸は一つ笑みを零すと、さっさと立ち上がって冷たい粉雪を振り払うように歩き出した。

「なんでもない。行くぞ」

そう言い放つと、楸瑛は置いて行かれないように絳攸を追いかけた。

「また迷ったんだね。連れて行ってあげるよ」

追い付いた楸瑛は絳攸に声をかけると、絳攸の白い手をとった。そして立ち止まる。

「………王の執務室まで連れていけ」

流石に、時間を喰いすぎたので仕方なく楸瑛に行き先を告げる。

「了解」

そうして二人は再び歩き出す。今度は手を繋ぎながら。



今では自分を取り巻く世界は暖かい。
そう、この繋いでいる暖かな手のように。

それは紛れも無い真実―――





End

→後書き

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あきゅろす。
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