Gift
1
御史大獄も終わり、下っ端官吏に戻った。出世コースを外れた二人は、公休日に絳攸の室でぼぉっとしていた。絳攸は寝台で身体を休め、楸瑛は椅子に座ってお茶をすする。
「楸瑛」
「何だい」
「お前…痩せたな」
絳攸の一言に、楸瑛は苦笑いすると傍に寝転んだ。
「君ほどじゃないよ」
絳攸の痩せこけた頬をそっと撫でた。
少し前は、もっとふっくらとしていたのに――
「でも…きみが――きみが無事で良かった」
ぎゅっと絳攸を抱きしめた。そしてすぐ笑う。
「なんだか恋する乙女みたいで大の男が気持ち悪いね」
つられて絳攸も笑った。
そしてふたりとも、『時』を悟る――
「…絳攸」
「…楸瑛」
同時に言葉を紡いで、絳攸が瞳を伏せた。
「きみが言おうとしたことは」
「お前と同じだろ、多分な」
そうか、と呟いて。
「――私たちは、もうこんなことをしている場合ではないよね」
楸瑛にはもう、藍家という盾はない。
絳攸もまた、黎深を失った。
意味があって捨てたものを無下にするほど、愚かに溺れているほどの余裕はもうないのだ――
「……そうだな」
「きちんと終わらせるためにも、あえて言うよ」
少し呼吸を整えて。小さく息を吐いた。
「別れよう、絳攸。私たちは、また友人という関係に戻るべきだ」
「それが、最善だろうな」
最善。
「――泣かないで絳攸」
そう言う楸瑛も、涙を流す。
「私はもう、君を抱きしめることが出来ないというのに…」
そう言ったきり、楸瑛も俯いて身体を震わせた。
もしこの動乱の世が治まったのなら
またあなたを全力で愛してもいいだろうか
「それじゃ、…また明日」
「…ああ」
こうして二人の愛は終わりを告げた。
明日、会う時はもう君を愛していては、いけない。
end.
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