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Gift

「…猫?」


回廊の傍らの木に、ふと目をやった絳攸は、その枝に猫を見つける。

高い枝の親猫と、追いかけようとしたらしい子猫。
そうして、どちらも降りられなくなったらしい。


「……しょうがない奴らだな」


絳攸は嘆息して木に登り始めた。





「絳攸ー絳攸ー」


また迷子になっているのではないかと捜索しにきたらしい楸瑛は、回廊で足を止める。
以前、ここで絳攸が李の
木を一人で眺めていたことがある。

また一人で眺めているのだろうか、なんてーー


「…何してるの、君は」


思っていたのに。
木の上で膝を抱えている絳攸を見つけた。

ちょっとだけ安堵しながら笑う楸瑛に、剣のような眼差しが向けられる。


「何を笑ってるこのばか!」

「いや…なんで木に登ってるのかなって」

「ね、猫が降りられなくなって…!」

「それで君も降りられなくなったのかい?」

「違う!!もう一匹いるからどうしようかと考えているんだっ!!」

「…なるほどね」


楸瑛はくすくす笑いながら近づいた。
そうして絳攸が膝ごと抱え込んだ猫と、もう一匹の猫を確認すると、


「絳攸、今から絶対に動かないでね」


一瞬だけ真面目な瞳になった楸瑛の目に、捕らわ
れる。
結果的に全ての動きを停止した絳攸の、その根元の枝が浮遊する。

きん、という剣が鞘に収まる音を聞くのと多分同時に、絳攸は温もりに包まれる。


楸瑛が枝を切り落としたと気づくのは随分あとの話で。


「…よし、救出完了」


落ちる絳攸を二匹の猫とまとめて抱きしめた楸瑛が、小さく笑う。

その声の近さにようやく抱きしめられていることに気づいて。


「な…わ…!何が救出完了だ!!さっさと離せこのばか!」

「あはは、じゃあ救出完了より捕獲完了に訂正し
ようか」

「どっちもダメに決まってるだろ!!」

「ははは、ひとりでどうにかしようとするからだよ」


楸瑛は、暴れる絳攸を抑え込むように抱きしめる。
どさまぎ、というやつである。


「困ったときは私を呼ん
でよ」

「誰が呼ぶか!!」

「つれないなぁ」


にゃー、という猫の二重奏が、楸瑛に共鳴するように鳴いた。



end


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