短編
1
甘ったるい。反吐が出そうなくらい、甘ったるい。けど一度口にしたら求めずにはいられない。癖になる。それは、一種の麻薬みたいなものだ。
何時もの様に愛しい彼を尋ねて来てみれば、仕事のし過ぎで机に突っ伏して寝ていた。涼しいのだが寝るとなると少し冷え込んでしまう、そんな夜だった。連日の激務で疲れ果てた彼を抱き抱え吏部から運び出して、軒に乗り込む。乗り込んだ後もそのまま抱き抱えていて。不健康な生活を送っている為にとても軽く、前より更に痩せてしまっていた。故に苦にはならなかった。
寝やすいように髪紐を解いて。そのまま誘われる様に銀糸に指を絡める。今夜は月が綺麗だ。その月光を受けて彼の髪は本来の姿だ、と言わんばかりに輝いている。無心に髪を梳きやっていると銀糸の持ち主が起きてしまった。
「しゅ…えい…」
「寝てていいよ。ちゃんと此処にいるから」
その言葉に安心して彼は再び眠りの世界へ入った。
自分は知っている。時々、彼が無意識に“それ”を求める事を。“それ”は温もりでも愛情でも良い。幼少期に“それ”を人より与えて貰えなかったからだろう。彼は養い親と出会って、とても屈折していてとても解りにくい愛情を与えられて満足している。が、根底には幼少期があって時に無意識に這い出てくるのだ。
その時に満たされなかった思いが。心が。自分が。求められずにはいられない。
それならば、私が“それ”をあげる。君が満たされるまで。気の済むまで。
“それ”は甘ったるいのだ。
癖になるくらい。
甘い甘い砂糖菓子。
彼の為に与える。それは勿論の事だが、実は自分の為にでもある。少しづつ彼の内に“それ”と同時に私も満たして。そして私を求められずにいられなくなれば、良い。
End
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