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短編


古びた本の匂い、足音が響き、頁をめくる音が何処からともなく聞こえてくる…静かな雰囲気。そして、知識を吸収する。
彼はその場所が、その動作が、好きだ。その事自体を愛しているんだ。




君の為に言ってるんだよ




何時もの様に、声をかけてみるが何時もの様に見事にスルーされる。それ程までに絳攸は本相手に熱中している。静かに秒針を刻む時計にちらと目をやると彼がこの場所に来てからゆうに半日は経とうとしていた。いや、とっくのとうに経っていた。これまた何時ものように昼食は食べていないのだろうし、これから摂る気もないのだろう。この熱中ぶりを見れば火を見るよりも明らかだ。知識は絳攸を虜にするのだ。いかなる時でも、魅了するのだ。それは知識だけではなく、彼の認識自体にも問題があるのだが。

「ねぇ絳攸、ご飯は食べた?」

「…………」

「ねぇってば」

「…………………」

はぁ、と溜め息をつく。
相手はがっつり知識を食べている最中。食べ物じゃなくて、知識。一刻一秒を争うが如くがっつりと食いついているのだから、呆れる所か逆に関心してしまう。

「こーうゆー」

「………」

「絳攸、火事だよ!」

「…………」

「あー!あんな所にUFOが!」

「………………」

……ちょっと引っ掛かってくれること期待してたんだけど。総無視ですか、そうですか。

「仕方ないな…」

強行手段に出るとしますか。
楸瑛は絳攸の後ろに回ったかと思うと次の瞬間、本を取り上げた。



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